あんた馬鹿?

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あんた馬鹿?

 信じるか信じないか。いや、信じられないかと言った方がいいかもだけど。少し前からユーチューブの世界に異変が起きた。なんと、教科書に載っている戦国武将。そう、織田信長や豊臣秀吉、武田信玄や上杉謙信とか日本人ならほとんどが知っている名だたる武将たちの『本物』がユーチューブにチャンネルを作り始めた。それは『うつけものチャンネル』だったり、『泣くまで待とうチャンネル』だったり。簡単に言うと過去の偉人たちが現世に突然現れ、この現代に順応してしまったのである。きっかけは最初に現世へ現れた『自称・足軽』と名乗る人が槍を振り回して警察官に取り押さえられたことだった。そこから過去の偉人たちは『とりあえず暴れるとアウト』ってことをすぐに理解した。 『郷に入っては郷に従え』  この世界では暴力をふるうと『ピストル』や『特殊警棒』を持った警察官たちに囲まれ詰むと学習した。そして次に学んだことがこれだ。 『働かざる者食うべからず』  自分たちがいた時代ではたくさんの部下がいて、食事の世話からなにからなにまでやってくれていたみたいだけどこの世界ではお金を手にしないと食べることも出来ないし、住むところもない。そこに目を付けたユーチューバーたちが「これぞチャンス!」と過去の偉人たちを「食事も豪華ですよー。あたたかーい布団もありますよー」と過去の偉人たちをスカウトし、それぞれにチャンネルを与え、出演させた。 「実は『本能寺の変』な。あれ、『寝たばこ』が原因だったんすよ」  ユーチューバーたちは再生回数を目的に過去の偉人たちに時に『受けそうなこと』を言わせた。でもみんなはその言葉を信じた。だって本物が言うのだから。そうこうしてるうちに『同時に百人のお悩みを聞きます!聖徳太子チャンネル』だとか、『日本の夜明けはアメリカの夕方!チャンネル』だとか。そしてそれは日本の偉人だけにはとどまらず。『ほらな。言うたやろ。地球回ってるやんチャンネル』だとか『睡眠大事。余の辞書に不可能と言う言葉はないは重言である』チャンネルだとか。そしていつしかこう言われるようになった。 『チャンネル登録者数が一番多い人を歴代ナンバーワンとしよう』と。  不思議なのはまあ、目の前で起こっていること自体が不思議だけど受け入れよう。けれど、なんでこんな狭いこの国に世界中の偉人が…とか、なんて流暢で聞き取りやすい日本語を世界中の偉人が…とか。けれど誰もツッコまないから敢えてそこも流す。現代のこの国では今、空前の『偉人ユーチューバー』にてナンバーワンを決める戦いが武力行使なしで行われていた。その偉人たちがそれを望んでいるかは分からないけれど。そして底辺ユーチューバーである僕の目の前にも一人の偉人が突然現れた。しかも僕の頭の上から。  ドシーン! 「あいたたた…。ちょっとー!どこ触ってんのよー!」  パシーン!  いきなりビンタされる僕。しかも首を思い切り捻った直後に。痛い…けど女性? 「あのお…、あなたは一体?」 「私か?私の名前か?え?知らない?うそーん!あり得なーい!」  すごくノリがいい。えーと。何かのドッキリですか?と思う僕。 「いえ…。本当に知りませんでして。すいません…」 「ちょっとー!あんた歴史の勉強してるー?」 「え?」  これって…まさか…!?と思う僕。 「私はー、遠い過去からやってきた!あの有名な!ほら、ここまでヒント言えば分かるっしょー」  ビンゴだ!この女性は『偉人』だ!とうとう底辺ユーチューバーの僕にも天使が舞い降りてきたんだ!でも名前も顔も知らないよー! 「すいません。僕、歴史とか全然ダメでして。すいません。てへ」 「てへじゃねえ!しょうがねえなあー。じゃあヒントいち。『三国志』。あー、もう答え言っちゃったかなあー!」  ええ!『三国志』ってあの!魏!呉!蜀のあの!…てか『三国志』で女子って…誰? 「すいません。勉強不足でして…」 「しょうがねえなあー!特別な!ヒントに!『関羽』!てか答え言っちゃったかなあー!」  え?関羽?関羽ってあの関羽?こういう時はスマホだ。ピコピコ。 『三国志 女性』  あ、関羽の娘さんで関銀屏って方がいらっしゃる。そうか…、でもレアキャラかも。 「分かりました!あなたは『関銀屏』さんですね!」 「はあ?あんた馬鹿?答え言っちゃったつったろ?『関羽』って」 「へ?」 「それに『関銀屏』は私の娘な」 「ええええええええええ!!!???関羽さんって女性だったのですか!?」 「それな。実は処刑された時に『うわー!もう駄目だ―!』って思ってたらさあー。なんか神様みたいな人が丁寧に説明会を開いてくれてさ。なんかこの世界に行くことを教えてくれてね。その時に性別も選べるっていうからまあそこは『じゃあ男で』と答えたわけよー!そしたらそいつがまあ捻くれた奴で。私には選択権は最初からなかったみたいで。女になっちゃったわけよー。ひどくなーい」  なるほど…。でも今の時代の関羽さんって大体女性キャラ設定が多いんですよねえ。 「それは災難でしたね。でも処刑されたはずなのに生きてこの世界にこられたのも事実ですし。そこは感謝じゃないですか?」 「そこなんだよねえ。で。さっきの話に戻るわね。説明会で一応研修用の『動画』っての?そいつを見せられてね。なんか『暴れたりしたらすぐに処刑される』ってのを説明されてな。で、私以外にもいろいろ来てるそうじゃない?いろんな時代からいろんな有名人が。私としては戦いたいわけよ。それに主君である劉備ちゃんも探したいしー。張飛とかー、みたいな」  ギャル語だ!あの関羽がギャル語ですよ! 「そうですねえ。まあ関羽さんがおっしゃる通りでいろんな時代のいろんな有名人がこの世界へ集中して来られてますよ」 「うほ!それで研修用の動画っての?で、他にも『この世界では部下とかもいないし、何をするにしてもお金が必要。それに元の時代の常識では通用しないよーん』ってことも説明されてさあ。そうなの?」 「ええ。実は今、先ほど関羽さんがおっしゃったように『暴れると即アウト』なんです。それで今は『ユーチューブ』ってものでそれぞれが自己主張をしてるんです」 「ああ!それそれ!『ゆーちゅーぶ』って言ってたわ!」  実際に見せた方が早いかも…。僕はスマホを取り出しユーチューブのアプリでそれを見せる。『馬超のコスモチャンネル』を再生する。 「あ!馬超じゃーん!」  『馬超のコスモチャンネル』で頭に猫を乗っけた馬超さんが人間の五感について、さらにその上の第六感、第七感と説明している。 「人間には味覚、聴覚、嗅覚、視覚、触覚の五感がありますが。前回はそのさらに上。六つ目の感覚、『シックスセンシズ』についてお話しましたが。今回は何と!そのさらに上の七つ目の感覚!『セブンセンシズ』についてお話します」  それを見た関羽さんが怒りの表情で言う。 「馬超!お前だけなんで兜はそのままなんじゃあ!」  え?そこ?いや、猫ですよ。あれ。
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