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「今日はこれな」
そう言って渡されたのは、いかにもっていうくらい露出度の高いメイドカフェの制服だった。
一体、こんなのどこで見つけてくるんだか……なんて少し呆れてしまう。
毎回違う制服を持って来ては、小柄で華奢な身体つきの俺に着せて、ただただビジネスホテルの一室で言われるままのポーズを取らされ鑑賞される。
指一本触れられることはないのに、観られているだけで俺自身はかなりの羞恥だ。
ことの発端は、あることを見られたから……
あの日は、どうかしていた。
バイトで失敗したせいで店長に怒られて、どこかむしゃくしゃしていたこともあり、別に欲しいわけでもないのに雑貨屋のコスプレコーナーにあったナースの制服を手に取ると、カバンの中へ入れようとした。
「おい、それはちょっとマズイんじゃない?」
「いやっ、これは……」
背後から俺の身体を隠すように包み込むと、耳元にグッと唇を近づけて告げられた。
突然の出来事に身動きが取れなくなった俺は、小さな身体を更に小さく丸めてしまう。
「それ、俺が買ってやるよ。ただし、条件がある」
「えっ……?」
「ほらっ、貸して」
包み込まれていた身体が解放され、俺が持っていたナースの制服を取り上げると、そいつは颯爽と歩き出してレジへと向かった。
「あの、ちょっと……」
「いいから。俺に任せて」
慌てて追いかけるけど、満面の笑みでそう言われてしまったら、それ以上何も言えずに、彼がそれを購入している様を見届けるしかなかった。
「さっ、じゃあ行こうか?」
「あの……どこへ?」
「いいから。着いておいでよ」
今度は強引に手を取って、歩き出す。
俺は、言われるまま嫌とも言えずにその後ろを着いていくしか選択肢はなかった。
「じゃあ、これ着てみて」
「えっ? 何言ってるの?」
「着るためにパクろうと思ってたんでしょ?」
「いやっ、違うし……」
「ふーん……まあいいや。だったら、着なきゃさっきの店に万引き犯だって連れ戻ってもいいけど……」
「ちょっと……それは……」
「だったら、つべこべ言わずに着てみてよ」
半分脅迫じゃん……しかも、そいつはやっぱり満面の笑みでこのやり取りを楽しんでいる。だけど、今更万引き犯として連れていかれるのは、勘弁して欲しい。
笑顔でナース服を差し出している男の手からそれを震える手で受け取ると、俺はビジネスホテルのユニットバスへと入っていき、泣く泣くそれに着替えた。
鏡に映った自分の姿を見て、正直吐き気がする。小柄で華奢だといっても、どこをどう見たって男の体で、ゴツゴツした骨っ節は隠せるわけもない。
それでも、やると決めたんだ。男に二言はない。拳を握ると、俺は目の前の扉を開けてベッドに座るそいつの前にナース姿で立った。
「へえ……意外と似合うじゃん」
「どこかだよ。気持ち悪いだけだろ?」
「そんなことないよ。ちょっと一回転して見せてよ」
「おい、ふざけんなよ」
「ふーん、出来ないんだ……」
「くそっ……やるよ。やればいいんだろ?」
半分投げやりな態度で、ムッとした顔で言われたように一回転をした。
「じゃあさ、今度はその鏡の前の机に手をついて、お尻突き出してみてよ」
「おい、お前……」
「ほらっ、つべこべ言わずにやって……」
部屋全体が見渡せるくらいの壁一面の鏡の前に自分の身体が映し出されて向かい合う形になる。
鏡越しで見られているその視線に、ドクンと下半身が疼くのを感じた。
俺……誰かも分からない男に、こんな羞恥を受けているのに、興奮してるってことなのか?
嘘だろ? 俺はノーマルで普通の男だ。こんな変態プレイに興奮するようなアブノーマルな男じゃない。
それなのに、その見つめられる瞳に逆らえなくて、もっと見て欲しいとさえ感じている俺がいて、言われた要望に答えるように、机に手をつくと、お尻を男へと突き出していた。
執筆時間…3月14日、3:00~3:55
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