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月森 桃花(つきもり とうか)
明日から夏休みということで、後は帰りのホームルームだけを待つ**高等学校二年二組の教室の雰囲気は、浮足立っている。
月森桃花にとって、目下の目標は、なんとしても丹生陽斗を振り向かせることだった。
教室の生徒にとっては特等席である、窓際の一番後ろの席。開け放たれた窓から流れてくる風が、陽射し除けにかけたカーテンをゆったりとはためかせる。
そよぐ風が彼の猫っ毛な髪を撫でる。
長めの前髪に底の厚い黒ぶち眼鏡。視線が合いにくいので表情は読み取りにくい。
背丈は意外にも高く、女子と話すときは少し猫背になることを知っている。
暗いというよりかは口数が少ない方なだけで、地味だけどちゃんと友人はいる。
などと、対角線上に帰りのホームルームを待つ合間に集まった陽気なグループに所属している桃花は、友人越しに陽斗を眺めていた。
友人たちの会話の合間に、スマートフォンを取り出し通話アプリでメッセージを送る。
『帰り、豆腐忘れないで』
メモ代わりに送信するとすぐに受信したのか、机に寝そべる彼は上着のポケットを弄り画面を一瞥すると、そのまま再びポケットにしまった。
桃花の画面には既読だけがつく。
「――――っ」
一文字でもスタンプでもしてくれればいいのに、その素っ気なさに文句を言いたかったが、クラスメイトの眼があるため我慢する。
桃花と陽斗では学校での接点があまりにもないため、親しく話しかけようものなら興味の対象になることを二人はよく知っていたのだった。
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