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秘密の待ち合わせ
互いの友人と別れ、ひと目のつかない場所で合流する。
十数分ほど遅れてしまい桃花は慌てて走ってくる。
「お待たせ」
先に待っていた陽斗は建物の日陰で涼んでいた。
暇つぶしに読んでいたのか、彼の愛読書であるハンドブックの植物辞典を閉じる。
「それほど待っていませんけど、喉乾いたので飲み物おごってくれたら許します」
同い年でありながらいつも敬語なのは距離を感じる。
「悪かったわねっ。何よどれがいいのよっ!」
これ見よがしに自動販売機が側にある場所で待っていたのは、桃花が遅れてくるのを見越していたからだろう。
桃花が電子マネーを取り出す前にすでに陽斗はボタンをしている。
ピッと支払いの音が聞こえると、取り出し口からミネラルウォーターが落ちてきた。
喉の渇きを覚えた桃花も同じものを買おうかと悩んでいると、
「はい」
「冷たっ!」
いきなり頬にペットボトルを押し付けられて飛び跳ねる。
陽斗の行動はいつも油断が出来ない。
「走ってきたから脱水症状起こされても困るし。僕はさっき飲み干したので大丈夫です」
そう言って片手でリュックから空になったペットボトルをくずカゴに捨てる。
水滴のついたミネラルウォーターを受け取ると、
「あ、ありがと……?」
自分のお金で買ったのに礼を言うのはどうなのかと納得がいかなかったが、素直に喉を潤した。
ある程度落ち着くのを見計らって、陽斗は歩き出そうとするので、桃花は呼び止める。
「待ちなさいよっ! 私だけ飲むのは気が引けるじゃないっ」
先に行こうとする陽斗に、急いで自販機にピッとし、ミネラルウォーターを手渡すと、呆れたようにため息をつかれる。
「これからスーパーに行くのだから、そこで買えば安くつくのに。――ありがとうございます」
それでいながら瞬時に飲む干すあたり、やせ我慢していたのではないのか。
口元から零れ落ちる滴が、男性特有の突起を伝う。
思わず見惚れているその視線に気がついたのか、陽斗はバツが悪そうに眉間にしわを寄せた。
「なんですか? 物欲しそうな顔して。まだ自分のが残ってるでしょ?」
「はぁあ? 別に欲しいなんて思ってないわよっ!」
とことん、つかみどころがない男である。
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