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たわいない会話
「あとは、お豆腐屋さんで豆腐ね」
引っ越して来た陽斗には土地勘がまだあまりない。
新鮮な青果の店、鮮魚や精肉の安いスーパー、お菓子の激安専門店。
桃花にはこだわりがあるらしく、一つの場所で揃えるわけではないので、いろいろと連れまわされ荷物持ちをさせられる陽斗は癖癖としている。
「豆腐だったらさっきのスーパーで買えばよかったのに」
さすがにぼやきが聞こえる。
「いーの! そこのお豆腐が気に入ってるんだから」
「あ、もしかして、この前の豆腐ステーキはそこのですか?」
「! そうよ」
桃花父以外は料理が出来るので、当番制だったり皆で手伝って食卓を囲んでいる。ちなみに桃花父の場合はよく外食に連れて行ってくれている。
先週の晩御飯は、桃花が作った。
豆腐ステーキのことを覚えていてくれたことに、胸の内が少しだけ疼いたことは気のせいにしたい。
「美味しかったです。また作って欲しいです」
珍しく素直に褒めるので桃花も悪い気がしない。
「そ、そう? まぁ作ってあげなくもないけど」
「じゃあ今日の食事当番お願いしますね」
「おいっ!」
「冗談ですよ。後片付けはしますから」
「当たり前でしょっ!」
なんだかんだと食事を作る流れになってしまったが、ほんの少し前までは一人で献立を考え父の帰りが遅い時は孤食が多い日もあった。
なので、こんなたわいない会話が桃花はたまらなく嬉しかったりするのだった。
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