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大好きなアルファの匂いに包まれ、意識は幸せの海を漂う。夢みたいだ。
でも、夢じゃない。手のひら同士を合わせて、指を絡めあった。
「──俺は、運命の番という存在が、嫌いだった。オメガのせいで、俺の家族は壊れたからな」
「……レグ?」
──オメガのせいで?
うつらうつらとする千歳の頭を撫で、レグルシュは語りだす。
千歳は目を閉じ、声を追いかけながら、レグルシュの記憶に浸った。
両親はアルファ同士で日本人の母、そして、フランス人の父親。
姉のエレナとレグルシュの四人家族だった。
幸せな家族の仲を引き裂いたのは、とある一人のオメガだったという。
父親はそのオメガのことを運命の番だと呼び、逃げるように番とともに故郷へ帰った。
レグルシュを連れて。
母親はエレナとレグルシュの両方の親権を主張したが認められず、父親はレグルシュを強引に連れ帰った。
「俺が小学二年の頃だ。昨日まで普通だった父の様子が突然おかしくなった。……オメガを好きになったと言ったんだ」
レグルシュは知らない土地で一人、アルファの父親はオメガに陶酔し、仕事も地位も捨てた。
引き取ったくせに、レグルシュのことを放置し、オメガも面倒を見ようとはしなかった。
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