5497人が本棚に入れています
本棚に追加
家にあるものは何でも食べて、空腹に耐えられないときは、恥を忍んで他の家に食べ物を分けてもらっていた、と言った。
そんな生活が何ヶ月続いたのかも分からない。
ある日、母親が突然訪ねてきて、レグルシュを日本へと連れ帰った。
ろくに面倒も見なかった父は「誘拐された」と騒ぎ、親権を巡る裁判は今も続いている──と。
「姉貴の旦那は婿入りして周防になった。周防は俺の母の旧姓だ」
「それって……それなら、レグの姓は」
握った手に力が籠められる。
レグルシュは間を空けて、「父の姓だ」と言った。
「俺は父の姿を見て恐ろしくなった。俺にも運命の相手……オメガが現れたとき、父のように破滅するのではないかと。アルファであることが嫌になったし、オメガを憎むようになった」
「レグ……」
レグルシュも千歳の隣で横になった。
「オメガを憎んでいる」──彼の過去を知り、千歳はただただ涙を溢した。
幼少期に辛い思いをしたからこそ、レグルシュは一人になったユキを放ってはおけなかったのだ。
レグルシュの腕が、千歳とお腹の子を優しく包み込む。
「千歳に惹かれているのだと、俺はその気持ちを心の中で何度も否定した。怖かったんだ。だから、いろいろと酷いことを言ったな。傷つけた分以上に、俺はこれから千歳と……その子を、幸せにする。……俺を、信じてくれるか?」
最初のコメントを投稿しよう!