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「分からずや!」と千歳は思わず叫びだしそうになってしまった。
もごもごと言い淀んでいるうちに、レグルシュが軽いほうの買い物袋を引っ張った。
歩道の途中にある支柱に当たり、ガシャン、と嫌な音がした。
「あ……」
二人で中身を確認すると、案の定、透明なパックの下で卵が割れていた。
レグルシュは手早く他の食材を、別の袋へ移した。
「今日の夕飯はオムレツかオムライスだな。どっちにする?」
「ごめんなさい」
「俺のほうこそ悪かった。……無理をしていないか、心配になるんだ。別に意地ではない。そこだけは知っておいてくれ」
そう健気に言われてしまえば、嫉妬の炎が胸の内で燻っていることは、とても口に出せなくなってしまう。
立ち止まる千歳の手を取り、レグルシュは指を絡める。
「トマトとデミグラスとホワイト。どれがいい?」
「じゃあ、トマトソースのオムライスが食べたいです」
千歳が希望を言うと、レグルシュは柔らかく笑って返事をする。
仕事の時間では見せない、慈愛に満ちた優しい顔だ。
家までの道のりを歩いていると、千歳の名前を呼ぶ男が物陰から現れる。
その男の様子が異常だとレグルシュは察したらしく、千歳を背に隠した。
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