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「拓海にとって僕はただの……愛人だったんだ。婚約者だなんて、二度と言わないで」
「違うんだ。千歳。慈善事業のようなものだよ。オメガは弱者だから、いろいろと生活のために……支援が必要だろう。もちろん、愛しているのは千歳だけだ」
「会社の不当なお金を使って、高級な服や鞄をプレゼントしたり、ホテルに行ったりするのが支援なんだ?」
週刊誌に掲載されていた一文をすらすらと読み上げると、拓海は言葉を詰まらせた。
吐き気がする。こんな男に縋ってしまった自分にも。
「拓海のそういうところにうんざりしてる。人の気持ちを考えられないんだね」
縋る先のなくなった男は、闇雲に手を伸ばし、千歳の身体に触れようとする。
それを遮ったのはレグルシュだ。
「くそ……っ! 離せ!」
「俺の反応のほうが早くて命拾いしたな。千歳に触れていたら、指を全部逆に折って、腕の骨も粉々にしているところだった」
「……やれるものなら、やってみろよ」
挑発に、レグルシュは何の躊躇いもなく、拓海の中指を手の甲へ逸らした。
折れる音よりも、拓海の絶叫が響き、千歳とレグルシュの前から、途中で何度も転びながらも逃走した。
「……折ったんですか?」
「折れる前に逃げたな。やれと言ったからそうしてやったのに。折ってやったほうがよかったか?」
「ううん。レグが手を汚さなくて、よかったです」
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