運命なんか、信じない

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顔も名前も知らない、写真の中の男に抱き締められているのは、間違いなく自分だ。 第三者が見ても顔がはっきりと分かる。 素人に咄嗟に撮らせたものではないな、と、千歳は薄々勘付いていた。 「昔、暴力を振るわれたから男が苦手なんだと……でも、俺だけはいいと言ってくれたのも、全部嘘だったんだな」 額に手を当て、やけに芝居がかった演技をしてみせる。 オメガ向けのリラクゼーショングッズを次々とヒットさせ、若きニューカマーだとSNSで絶賛されている園田(そのだ) 拓海(たくみ)は、千歳の将来の伴侶となる男だった。 千歳が二十歳のときから交際を始めて、そろそろ五年が経とうとしていた。 「違うっ! 街を歩いていたら、急に抱きしめられて……もちろん、抑制剤も服用していたし、これ以上のことは、何も……」 声が震える。確か先週くらいの出来事だ。 退勤した千歳はいつものように家の近くのスーパーへ寄り、二人分の食材を買った。 夕刻で主婦や子供などの人通りもそこそこあった。 買い物を済ませ、千歳は道草をすることもなく、自宅のマンションへと帰ろうとしていた。 ポケットに入れていたスマホに着信が入り、千歳は買い物袋を提げているほうと反対の手で、応答する。
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