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両手が塞がった瞬間、後ろから男に抱き竦められていたのだ。
「か、かわ……かわいいねキミ……」
首筋にかかる生温い息と、粘ついた声に、千歳はひっ……と悲鳴を上げた。
眼鏡とマスクをつけた痴漢の顔は分からなかったが、異常事態に千歳は必死に藻掻いて助けを求めた。
その後痴漢は取り押さえられ、千歳は警察署に保護された。
担当の警察官は足を組みながら面倒くさそうに、千歳に「どうするの?」と聞いてきた。
向こうの言い分がどういうものなのか分からないが、大方、オメガの千歳がフェロモンで誘ったんだろうとでも言いたげな顔だった。
オメガのフェロモンが契機となる事故は、毎日ネットやテレビのニュースで見かけるし、珍しいことではない。
オメガにいくら過失がないといっても、責任はゼロにはならない。
『抑制剤を服用していないのに出歩いていた』
『アルファの玉の輿に乗るためにわざと』
そんな裏取りもしない適当な理由付けで、過失割合を自由にコントロールする。
ネット記事のコメントでは、オメガを擁護する内容のものが時々見受けられるが、どれも口だけの正義感だった。
酷いものでは、不適切なコメントとして削除されているサイトもある。
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