運命なんか、信じない

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このまま「なかったこと」にされるのは癪に障る。 抑制剤もきちんと用法通りに服用していたし、隙を見せないように気を付けていたつもりなのに。 目の前の公務員のぞんざいな態度にむかついたが、非力な自身にもやるせなくなり怒りを通り越し冷めた気持ちになる。 横の事務椅子に置いた、買い物袋の中の生もののほうが気がかりだった。 ──それに。 彼の顔に泥を塗りたくない。 心の底では許せなかったが、千歳は訴えを取り下げることにした。 ──それなのに。 「千歳の言うことは何も信じられない。君は他の浮気性なオメガとは違うと、信じていたのに……婚約は解消だ」 空っぽな頭のまま、屈辱的な台詞を背中に受けながら、千歳は小さな段ボール箱の中身を見た。 全てではないが、千歳の服が数枚と仕事で使っているタブレット、その他、机の上にあった私物がぐちゃぐちゃに放り込まれていた。 横には旅行用のトランクが置いてある。これに詰めて今すぐ出ていけ、ということだろうか。 「拓海っ! おねがいだから話を……」 「さっきから保身ばかりを口にするな。まずは俺に謝罪するべきなんじゃないか。もし……もしもの話、逆の立場で俺がオメガをあんなふうに抱き締めてたらどう思う?」 「それは……その。誰でも、勘違いすると思う」
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