運命なんか、信じない

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「いた……っ」 玄関まで引き摺り出される間にも、千歳は「誤解だから」と、蚊の鳴くような声で拓海に縋る。 些細な抵抗にも、拓海の心が傾くことはなかった。 千歳を身一つで放り出し、続けて段ボール箱とトランクを廊下へと、ゴミを捨てるように投げた。 ──『婚約は解消だ』 愛していた恋人──運命の番だと信じていたアルファから告げられた言葉を、千歳はまだ信じられないでいた。 ……────。 ──これから、どうしよう。 頭に栄養が回っていなくて、思考はどんどんと暗い方向へ進む。 小さなトランクを引きながら、千歳は飲食店が並ぶ通りを抜けた。 美味しそうな匂いに、愚直なお腹の虫はぐう、と高らかに鳴る。 小坂を登れば、整然と並んだ住宅のエリアがある。 千歳は街灯のすぐ横に腰を下ろした。 婚約解消を申し出された日から、二週間が経った。 事態は良くも悪くもならず、平行線のままだ。 一応、拓海に送ったメッセージには既読はつくものの、話し合いに応じてくれる気配はない。 在学中、千歳は当時付き合っていた拓海に「起業した会社で一緒に働かないか」と誘われた。 少しでも助けになればと思い、苦労して勝ち取った内定を蹴って彼の元で働くことを決めたのだ。
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