びんぼうざむらい

2/11
10人が本棚に入れています
本棚に追加
/11ページ
「ハン、ハン、ハン、ハン」  力のこもった声を出すのは伝三郎です。これから死合(しあ)い稽古をするのですから、体じゅうに気力をめぐらせるのは当然です。  相手となる十兵衛は、目をとじて呼吸を整えています。  稽古を二人でする場合、八角館にはふたつの仕方がありました。  防具をつけて竹刀で自由に打ち合う地稽古と、木刀をにぎって決めた順番通りに動く形稽古(かたげいこ)です。  形稽古は硬い木刀を使うのですから、打ちこみが決まれば大けがをしてしまいます。  ですから、攻撃をきちんと防ぐことができるよう、ゆっくりと動くのでした。  しかし、死合い稽古はちがいます。  動く順番は決まっていますが、手加減をしないで木刀を振るのです。  もしも受けそこなえば、打ちどころによっては命を落とすこともあります。  だから「死合い」などと、おそろしい名前がついているのです。  剣の達者が集まる八角館でも、十兵衛と伝三郎にしかできない稽古でした。
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!