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「ハン、ハン、ハン、ハン」
力のこもった声を出すのは伝三郎です。これから死合い稽古をするのですから、体じゅうに気力をめぐらせるのは当然です。
相手となる十兵衛は、目をとじて呼吸を整えています。
稽古を二人でする場合、八角館にはふたつの仕方がありました。
防具をつけて竹刀で自由に打ち合う地稽古と、木刀をにぎって決めた順番通りに動く形稽古です。
形稽古は硬い木刀を使うのですから、打ちこみが決まれば大けがをしてしまいます。
ですから、攻撃をきちんと防ぐことができるよう、ゆっくりと動くのでした。
しかし、死合い稽古はちがいます。
動く順番は決まっていますが、手加減をしないで木刀を振るのです。
もしも受けそこなえば、打ちどころによっては命を落とすこともあります。
だから「死合い」などと、おそろしい名前がついているのです。
剣の達者が集まる八角館でも、十兵衛と伝三郎にしかできない稽古でした。
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