新社会人の絶望ともっと深い絶望

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「空気感染を感染研がやっと認めたな」 「ああ、既に2年前から世界では常識だったことをな」 「だが、飛沫感染接触感染がメインの感染ルートとする前提の下に推し進めていた当初の感染対策じゃないと国から予算が下りてこないという都合上、利権を守るべく空気感染がメインの感染ルートとは説明しないから、あのねえちゃんみたいに相変わらず除菌に勤しむ訳だ」  ウェイトレスがテーブルをせっせと拭くのを見ながら田所は言ったのだった。 「こうやって飲食しながら喋っていても換気扇と空気清浄機をフル稼働させ、換気するだけで感染対策は99%OKなのにな」 「実際、飲食店の感染率は1%もないんだ」 「それを除菌の成果とでも思ってるのかな。その理屈なら食器こそ拭きまくって除菌しなきゃな」 「言えてる。ウィルスはエアロゾルに含まれながら空気中を漂ってるのにな」 「なのにご苦労なこったなあ」  ウェイトレスがチェアをせっせと拭くのを見ながら原本は言ったのだった。 「ご苦労と言えば、尾身分科会長がジェイコー理事長を勇退したな」 「皮肉でご苦労様って言いたい訳か」 「そうだよ」 「ハッハッハ!」と笑い合う二人。 「で、退職金しこたま貰って結核予防会代表理事に天下りしてさ」 「その前にも補助金たんまり貰っといてジェイコーに割り当てられたコロナ患者用の全病床の半分もコロナ患者に提供しねえでおいてだぜ」 「で、132億円ぼったくり」 「国民が払った税金を・・・」 「そしてどれだけ犠牲者を出したことか」 「そんな万死に値する奴がいい思いをする」 「どんな縮図なんだよ」 「悲しいかな、これが現実だ」 「現実というのは知れば知る程、不正不条理を実感し恐ろしくなるもので上海で感染者が急増してるだろ」 「ああ、ロックダウンしたな」 「うん、数字を見れば歴然で中国は徹底的にPCR検査をやってるから無症状感染者の割合が97・5パーセントと高く無症状感染者をしっかり捕捉出来てるのが分かるけど、日本は徒でさえ極端に検査数が少ないところへ持って来て岸田が杜撰な感染対策がばれないように都道府県にあんまり検査するなって大号令を発して更に検査数を減らしたし、精度の悪い抗原検査が主流だから全然捕捉出来てなくてなんと6・4%なんだ」 「ということは」田所はスマホのアプリで計算した。「約15倍か。逆に陽性率はちゃんと検査をしていれば3%くらいに落ち着くのに日本は全然検査数が足りないから約40%とムッチャ高いんだ。だから約13倍、その中を取って新規感染者の公表数に14をかければ大体の実数になると言って良い」 「だから5万と公表されれば70万人感染したと捉えるべきなんだな。どうだ、不正不条理だろ怖ろしいだろ」 「全く何がピークアウトだよ。デマばっか流しやがって、誤魔化しがいつまで効くと思ってんだ。この皺寄せはとんでもなくでかく出るぞ」 「何せ無症状者が自覚なしにそこらじゅうで出歩いてるんだ。感染拡大する筈だよ」 「それに無症状でも4割くらい後遺症を発症するからほんとやべえな」 「毎日何十万もブレインフォグになったり他の病気にかかるリスクが高くなったり持病が悪化したりする人が現れるんだもんな」 「軽症者中等症者も入院病床率が増えないように医療崩壊しないように酸素飽和度93%以下、中等症レベル2でも病院は受け入れないから医療を受けられずに死ぬ人も一杯いてさ、こんなことを続けてたらこれはマジでとんでもないことになるぞ」 「だから尾身みたいに責任逃れで辞めるんじゃなくて感染症ムラの連中は今直ぐ責任を取って辞任しなきゃな」 「それか強制的に首切り、でも今頃、そうしても遅くね」 「あーあ、もう手遅れか、メンバー刷新しても焼け石に水っぽくね」 「残念ながら」 「おまけに金持ちに向けて黒田バズーカ撃ちまくったアベノミクスの付けが回って円安が進んで供給ショックも相俟って物価がどんどん上がってるし、貧富の格差が拡大して実質賃金が下がり続けてスタグフレーションだよ」 「安倍が腐敗に腐敗を重ねた今の自民党じゃ、年金払いの為に消費税を上げると言っておいて増税分の税収を防衛費に充てて無駄に軍拡して益々国民を苦しめるだけで何も改善できないよ」 「ロシアのウクライナ侵攻を見ても原発を50基以上抱えてる時点で国防は無理と悟れず原発廃絶に動くどころか核シェアリングしようなんて考えるようなアホな指導者の下、俺たちも日本もどうなるんだよ」 「コロナと供給ショックと失政に因る大不況時代を生きるよりは早いとこ南海トラフ大地震が起きて原発がメルトダウンして日本中被曝して生きていけなくなった方がマシかもな」 「それか北朝鮮の弾道核ミサイルが狙ってか誤ってか日本列島に直撃して即死した方がマシかもな」 「それか第三次世界大戦に巻き込まれて・・・」 「今日から俺たち新社会人なのにどんだけ希望ねえんだよ」  二人は相も変わらず一生懸命除菌するウェイトレスとは裏腹にすっかり白けて無気力になるのだった。 「はーあ、入社式の時も今みたいな気分になったよな」と田所。 「離れ離れに座らされてさ」 「ウィルスが遠くに漂ってても空気感染するんだから意味ねえのにソーシャルディスタンス守れってか」 「ソーシャルディスタンスと言えばさ、サイバー特別捜査隊発足式の警官たちも間隔を置いて整列してて間抜けだったけど、式典の横断幕の字も間抜けだったよな」 「そうそう、すげー下手糞だよな。只、白い下地に黒で書いてある酷くしけた感じでさ、あれって完全に手書きだよな」 「うん、看板屋とかに頼めっつうんだよ。セコ過ぎだろ、センスなさ過ぎだろ、字心なさ過ぎだろ、ダサ過ぎだろ」 「大事な式典に使う物なのにあんな字で良しとするなんて呆れるぜ」 「一応、字が上手い奴に書かせたんだろうけど、それであれかよ」 「昔の日本人の達筆な字と比べると、月と鼈だな」 「残念ながら日本人の劣化を雄弁に物語ってるよな」 「全くだ。発足式見ただけで昭和から進歩してない自民党の右翼連のアナログ頭が反映した捜査隊のアナクロで低俗で幼稚なデジタル感が一ミリもない半端ないダサさ加減が手に取るように分かるよな」 「ダサいだけならまだしも自治体警察の捜査権限を警察庁に与え、地方分権が崩壊して中央集権になってしまい、本来の警察法の性格を根底から否定することになった今回の警察法改悪は、サイバー攻撃捜査を口実に過剰に個人情報収集して市民的自由を制限したり政府に批判的な個人や団体への弾圧を強化したり言論と表現の自由や通信の秘密やプライバシーを侵害したりすることを政府の望むまま警察庁がしてしまう事態を招いて日本が独裁国家になってしまうぞ」 「時代が逆行して特高警察に立ち返るって訳か」 「今度の参院選で自民党が勝利したら行く行くはそうなってその頃には日本は軍事国家になってるだろうな」 「希望の星はれいわ新選組だけなんだけど議席を一桁増やすので精一杯だろうし、野党がばらばらだからなあ」  ここに於いて原本は絶望して何もかも馬鹿々々しくなって酔余も手伝ってウェイトレスに向かって叫んだ。 「おい、ねえちゃん!そんなにごしごしやったところで手が荒れるだけの話で何にもならないぜ!」 「何にもならなくてもいいの。何にもならないと分かっていてもやらないと生きていけない、こんな国、何にもならないことをやらされたまま滅茶苦茶になれば良いと思うもん」  田所と原本は驚いて顔を見合わせ、それからウェイトレスに瞠目たらしめられた。この子、俺たちより絶望してると思いながら・・・そしてその拭く姿がヤケクソに見えて来るのだった。
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