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「深月」
深月が顔を上げる。
ごめんな。
でも、言わないと、いけないんだ。
「そのラインしたの、俺なんだ」
「???……どういう事…?」
深月は驚いたような、怒ったような、困惑したような顔をして、俺の顔を見た。
言わないと。
そう思うのに、声が出ない。
深月は黙って、俺を見ている。
顔色は良く、経過は良好そうだ。
「───ごめん」
俺は病室の床に膝をついた。
声が震える。
涙が溢れてきて、俺は咄嗟に俯いた。
「笹原は、此処に来ないんだ───」
涙声の自分の声が耳に入った。
初めて聞く、泣いてる自分の声。
「どういう事…?」
深月の困惑した声が耳に入った。
深月の顔を見る事ができない。
泣かない。絶対に泣いてはいけない。
そう思って、深月の病室に来たのに───
「深月、笹原は───」
俺は声を絞り出し、顔を上げた。
深月の顔を見て、今度こそ伝える。
深月を絶望させると、知りながら。
「……深月の…心臓になったんだよ───」
深月の表情から笑顔が消える。
それと同時に瞳も、マネキンの様に動かなくなった。
俺は病室の床に膝をつけたまま、その場に座り込んだ。
全ての真相を、深月に伝える。
それが笹原から託された───俺の最後の仕事。
俺は深月に真実を伝え始める。
深月が俺の言葉を信じているのか、いないのかは分からない。
それでも深月の右手は、1週間前に体に入ったばかりの───笹原の心臓にあてがわれていた。
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