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「翔ちゃん!」
扉を開けきる前に、深月の嬉しそうな声に出迎えられ、俺は扉を開いたまま足を止めてしまった。
ベットの背を立てて、体を起こしている深月と目が合い、深月は笑顔を作ったまま表情を凍らせる。
「久しぶり」
俺はそう言って中に入った。
口にしてから、もっと先に、言うことがあるよなと思う。
「……久しぶり……
……ごめん。
…てっきり…翔ちゃんだと思って…」
深月は気まずそうに挨拶した後、俺にそう説明してくれた。
深月が謝る必要は無い。
深月が俺を、笹原だと思うのは当然だった。
「翔ちゃんからね…
今病院に着いたよってLINEが入ってて……
…もしかして凉、一緒に来たの…?」
深月は俺を、遠慮がちに見上げた。
真っ黒いのに澄んだ目が、俺を捉える。
自分の頬が、ピクリと強張った。
自分の感情も、体中に張り巡らされた神経も、俺が喋る事を拒んでいるみたいだった。
俺は拳を作り、親指の爪を自分の手に食い込ませる。
俺は今間違いなく、深月を絶望の底に突き落とす。───それでも、言わなくてはならない。
「1人で来たよ」
俺の感情を押し殺した言い方に深月は気づいたのか、怪訝な顔をした。
深月は手元に置いてあった携帯を見た。
「…でも……
…『今着いた』って翔ちゃんから───」
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