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「宰明さん…!」 「病院を抜け出した病み上がりの娘に─── 深月は心臓病なんだぞッ!? ───そんな事していいと思ってるのか!!!」 俺の静止を聞かず、宰明さんは笹原を睨みつけた。 笹原は宰明さんの拳を受けて倒れたものの、直ぐに地面から起き上がった。 「───そんなに嫌ですか…? ───僕が深月を可愛がるのが」 可愛がる。という表現に苦虫でも噛んだような嫌な気持ちになる。 昨日の夜、笹原は深月を抱いたのだ。 「───嫌とか良い以前の問題だね… ───深月は凉君と結婚している… 君のやった事は───立派な不貞行為だよ」 「じゃあ、深月も僕も同罪ですね。 合意の上で───そうなったんですから」 笹原はそう言って、口の端から出てきた血液を手の甲で拭った。 合意の上でそうなったんだと言われ、笹原の発する言葉の端々に俺は傷つけられる。 笹原は倒れた時に着いた細かい砂の粒をポンポンと手で叩き、払い落とした。 「───交渉といきましょうか。 きっと2人とも喜んで─── ───首を縦に振ると思いますよ」 笹原はそう言って、まるで自分の勝ちが確定しているかのようにクックと鳩の様に笑った。 やはり俺は───笹原を見誤っていた… 高校の頃に深月と付き合うようになってから知り合い、何度も一緒に出かけたり話したりした笹原と、目の前の笹原は別人に見える。 笹原と同じ姿形の人物が2人いるのでは無いかと思うほど、俺は目の前にいる笹原が笹原だと信じることができなかった。
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