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「……何の話かな───」
宰明さんのこめかみから汗が伝って、地面に落ちた。
笹原は改めて、宰明さんの顔を見た。
「俺と深月が、姉弟だって…
…俺が知らないとでも思ってました?」
俺の思考は、数秒停止して、その後で速くなる心臓の鼓動に追いつくように、フル回転で笹原の言葉を理解しようとしていた。
姉弟?
深月と───笹原が───?
俺は黙って宰明さんを見つめた。
宰明さんは笹原を見つめたまま、黙っている。
「貴方は俺が自分の息子だって…
…俺が母親の中にいる時から気づいてたんですよね?
貴方は俺の母親と口裏を合わせて3歳の頃に事故死したという架空の父親を作った───
しかし俺の母親は病気で亡くなってしまった───貴方は自分が架空の父親の親友だったからと理由をつけて───俺を監視したんでしょう?
…俺が姉である深月に手を出さないように。
…深月が俺を弟と知らず───好きになったりしないように」
俺は突き付けられた真実に言葉を発する事が出来なかった。笹原と深月が愛し合うのは───生まれた時からタブーだったという事だ。
「……なにを言って───」
宰明さんは喉が詰まったような声をだした。
俺には宰明さんが、少し前より数年分急に老けこんで見える。
苦し紛れに絞り出したという声が、ぴったりな、掠れた声だった。
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