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《Side:Ryo.K》 俺は自分の人生を、全部自分で切り開いてきた。 実の父親に金で売られた、あの日からずっとそう。 俺の母親が亡くなって、自分1人では俺を育てきれなくなった父親はだんだんと酒に溺れ俺を鬱陶しがるようになり─── 大正時代から代々続く医家の後継となる子供が生まれず悩んでいた知り合いに、息子を買わないかと提案した。 父は知り合いに俺が優秀な息子だとアピールし、後継の息子として育てるには申し分ないとそう告げた。 俺を引き取ることを決めた古賀家の人間は相当焦っていたのか、10歳の俺を1000万という金を払って引き取り───俺はその日から古賀凉(こがりょう)になった。 金と引き換えに俺を手放した瞬間の、あの嬉しそうな父親の顔。どす黒い感情が墨汁を垂らしたように一瞬で心の中に広がった。 望まれたように、医者になってやる。 実の父親が手放したことを後悔する程、完璧な人間になって、誰もが羨む完璧な人生を手に入れてやろう。 その為に勉強し、有名大学に進学し医師になり、付き合う友達も付き合う女も───全部吟味して選んできた。 だから欲しいものは、全部持っている。 家で俺を待つ、従順で美しい妻。 素直で可愛い息子。 同僚や患者からの信頼。 三階建ての大きな一軒家に、外車が2台。 一生物の家具。 有名デザイナーが作ったスーツにネクタイ。 子猫みたいにワガママだけど愛おしい ───自由奔放で可愛らしい愛人。 俺の人生は完璧だ。 俺は自分の好きなものしか、そばに置かない。
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