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《古賀凉の章》 欲しいものは、全部持っている。 それは今までもだったし、今現在も。 そして多分、これから先もずっと。 俺は昔から、欲しいものは全部手に入れないと気が済まない。 家で俺を待つ、従順で美しい妻。 素直で可愛い息子。 職場の同僚や患者からの信頼。 三階建ての大きな一軒家に、外車が2台。 一生物の家具。 有名デザイナーが作ったスーツにネクタイ。 子猫みたいにワガママだけど愛おしい 自由奔放な愛人。 俺は好きなものしか、そばに置きたくない。 子供の頃から 新作のおもちゃも、ゲームも、ロボットだって、欲しいといえば何でも買ってもらえた。 俺の父親も医師だ。 だから子供の頃から、将来は医師になる事が決まっていた。 それは別に苦でも何でもなかった。 勉強は楽しかったし、教師達が一度説明した事はすぐに理解できた。 テスト勉強なんてしなくても親父が目指せと言った医大に入れるくらいの点数は簡単に取れた。 「ぱぱー!日曜日ね、動物園行きたい!」 (そう)は俺の足にまとわりついてきて、俺の顔を見上げる。 奏は今年で5歳になった。 甘えん坊で1人で遊ぶのが苦手で、よく深月(みづき)の後ろをついて歩いている。 「日曜かー。パパその日お仕事なんだよー」 俺は奏と目線を合わせてしゃがみ、にこやかに微笑み、嘘をつく。 ダメなんだよ、その日は。 芽美(めみ)と会う約束してるから。 「えー…またぁ…」 「ママに話してみな?」 「パパも一緒がいいの」 「奏!」 奏がイヤイヤする様に体と首を横に振り始めたところで深月が奏の名前を呼ぶ。 「パパ大事なお仕事なんだって。 ママと2人で行こ」 深月もしゃがみ、奏の両手を握って言った。 自分の妻ながら美しいなと、俺は深月の横顔に目をやる。 雪の様に白い肌に、青みがかったピンク色の唇。真っ黒い瞳。 鎖骨を少し過ぎた所まで伸ばした、髪は艶々としており、深月の色の白さを際立たせていた。 奏も深月と同じような顔のパーツをしており、頭の形や顎周りの骨格は俺に似ているものの、そこ意外は深月にそっくりだ。 小さい頃、奏はその整った顔立ちから、よく女の子に間違われた。 深月の父親の影響もあるかも知れないが、芸能事務所に入らないかと誘われた事もある。 深月も奏も、どこへ連れて行っても恥ずかしくない妻と息子だ。 彼女と結婚した事のメリットはとても多く、深月の父親との繋がりから芸能界の知人友人も増えた。 最初こそ深月には母親がいない事を少し気にしたが、それは全く問題にならなかった。
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