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6 星空
太陽も星もここにはない。
だからそれらを陽向は言い伝えでしか知らない。
自分よりもずっと前から生きている祖母も、まだ九十をいくつか過ぎたばかり。大災厄の起こった三百年前の生まれでは当然ない。
つまり今生きて地下にいる者の中に本物の太陽や星を見たことがある者は誰一人としていないのだ。
けれど寝物語に語られるのは、自分達が取り上げられた地上にひしめく美しいものの話だった。
「朝、金色の光をまとい、お日様は顔を出す。その光は大地を柔らかく温め、草木を慈しむ。青々と葉を茂らせた木々を優しく撫でるのは風。風はどこまでもどこまでもその尾を伸ばしながら大地を駆ける。
時が過ぎ、太陽はそっとそっと西へと移り行き、やがて地平へと静かに姿を隠す。そうなったら次の主役は月と星だ。
太陽の光で淡く透ける水色だった空は、光を失い黒い暗幕へと化す。その暗幕を彩るように無数の光が瞬き始める」
それが、星だよ。
しわがれたしかし、じんわりと温かい声が耳元で響き、ゆるゆると陽向は瞼を持ち上げる。
そして、自身の目前に広がった光景に絶句した。
星が、見えた。祖母に聞かされ続けた星空が横たわった自分の頭上いっぱいに広がっていた。
「これ……」
慌てて飛び起きようとして全身に痛みを覚えた。まるで骨がばらばらになってしまったかのような激痛に、低く呻いてもたげようとしていた頭を戻す。そこで気がついた。
頭の下に枕がある。また自分の体を覆うように掛布もかけられている。さらりとした手触りの掛布を撫でさすると、自分がいつも使っている、毛羽立ったものとは明らかに違う手触りが掌に伝わってきた。動揺しつつ、陽向は頭上に広がる無数の光に再び目を向けた。
「星空……」
「違うよ」
ふいに耳を震わせた声に、心臓が激しく音を立てる。焦って周囲を見回そうとすると、頭上に広がっていた星空がふい、と途切れた。
途切れた場所にあるのは、人の顔。
その顔を認めた瞬間、陽向は息を止めた。
知らない人だったからなのもそうだ。だが、それ以上に陽向は目にしたその顔に衝撃を受けていた。
かがり火一つも焚かれていない場所だったが、頭上を覆う無数の光のおかげか、周囲はほの青い光に満ちている。その光の中、こちらを見下ろした顔は、あまりにも美しすぎた。
年のころは陽向とそれほど変わらないか少し年上くらいだろうか。その顔は端整で、どちらの性とも言い難い繊細さに満ちていた。すっきりと切れた切れ長の瞳は静かな光を宿し、まっすぐにこちらに向けられている。黒髪とそれ自体が発光してみえるほどに透き通った輝きをはらむ肌。まとった和服の黒色も合わさり、黒と白の色彩に沈むその人の、唇のわずかな赤さが陽向の目を柔らかく焼いた。
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