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82 許して
「罰でいい。俺は、楓のいない温かい六十年より、楓と共に過ごす苦痛に満ちた永遠がほしい」
ふっと楓が呼吸を止める。大きく見張った目はやがてゆらり、と震えた。その彼に陽向は続けた。
「俺にはあんたを助けられるような力はない。でもずっと思ってた。隣で支えたいって。それがこれに入れば叶うんだ。あんたが疲れたと思ったとき、孤独を感じたとき、傍にいることだけはできる」
陽向はそうっと彼の頬に手を触れてから、苦笑いをしてみせた。
「まあ、すごく痛かったり苦しいらしいからみっともない顔ばっかり見せちゃう可能性の方が高いけど。それでも傍にいたいから。だから傍にいさせて」
楓は立ち尽くしたまま陽向を見上げている。言葉を忘れてしまったかのようなその沈黙に、楓? と呼びかけると、彼は唇を震わせながら囁いた。
「そんな顔、絶対させない」
「え?」
「痛みも苦しみも感じさせない。僕の力のすべてをかけて君を守る。全部全部、消してみせる。だから、許してほしい」
「なにを?」
そうっと問いかけた陽向を楓は見上げ、滲んだ声で答えた。
「君を望んでしまう僕を」
許して。
空気に溶けた謝罪の声に胸が締めつけられ、陽向は目の前の肩を胸に引き寄せる。その陽向の傍らで、やれやれ、と声が聞こえた。
呆れた顔で時見がこちらを眺めていた。楓の肩を離すと、時見は両手を軽く広げてみせた。
「こちらとしては君が入るのは構わないよ。楓がそれでやる気を出して除染が進めばそれに越したことはないわけだし。
たださ、一つ、教えておいてあげるよ。陽向くん」
時見は鳥籠の扉にだらしなくもたれかかりながら言った。
「君はさ、力がなにもないと言ってるけどそれは間違い。君たち炎が黒鳥に与える呪いの炎ってやつ。それさ、寿命を削るだけのものじゃないから」
「どういう、ことだよ」
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