エピローグ 不死鳥と渡り鳥

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エピローグ 不死鳥と渡り鳥

 エンジン音が飛行場に響く。  メインの操縦は和泉二等兵が、その後ろに座り、私がサポートを担当する。ヘルメットと呼吸器を装着すれば、すぐ近くにいてもお互いの声は直接聞くことはできず、無線越しのものになる。 『エンジン点火完了、発進します』  和泉二等兵の宣言と共に、鉄の鳥が走り出す。最初はのっそりと。そしてすぐにスピードをあげる。旅客機などと違い、滑走は少しでいい。 『離陸』  和泉の手が操縦桿を引っ張り、それに合わせて機首が持ち上がる。  横風に多少振り回されはしたが、主翼は安定し、問題なく、飛行機は青い空へと飛び出っていった。 『上手いものじゃないか』 『えへへ……どんなもんです』 『だが油断は出来んぞ。車とはわけが違う。風に煽られるだけでも、一気にバランスが崩れるからな』 『分かっていますって、ドーンと任せてくださいよ』 『期待しよう』  和泉の声に、緊張はなかった。多少の補助は必要だろうが、この様子なら、敵の領地まで問題なく向かえるだろう。 『……えっと、上官』 『九条でいい』 『っ、……九条、さん。私、今すごく嬉しいです』 『私もだよ』 『多分、九条さんよりもずっとずっとです』 『それはわからんぞ。私だって、和泉が思っているよりずっとずっと、こうしていられることを嬉しく思っているかもしれん』 『本当ですか? そうだったら嬉しいなぁ……。……あ、九条さん、三時の方向!』 『っ、敵か?』 『いえ、カモメです! ウミネコかな?』  後ろから彼女の頭をひっぱたく。 『痛い!?』 『紛らわしい報告をするな』 『うぅ、ごめんなさい……。ねぇ、九条さん。ウミネコとカモメの見分け方ってわかります?』 『ん? ……いや、知らんな』 『鳴き声が違うんです。ニャーニャー鳴くなら、それはウミネコなんですって』 『そうか……じゃあ、あれがどっちかは分からんな』 『そうなんですよね……あーあ、どうせなら、海岸線とかで見たかったな。そうすれば、鳴き声で聞き分けられたのに』  そう言われて、ふと想像してみる。訓練の続く日々のほんのひと時。いつも通り彼女がひょっこりと現れ、二人であの鳥を遠くから眺める様子を。彼女と隣り合い、互いの息が、声が耳に掛かるくらいに……。 『痛い!? え、なんで今私叩かれたんですか!』 『うるさい、前を向いて操縦していろ。絶対こっちは見るなよ』 『理不尽! いや、どうせ後ろ向けないからいいですけど……!』  ブツブツと呟く彼女の声を耳に感じながら、私の頬が熱くなるのを感じた。次いで、頭の中が沸々と茹っていく感覚も。  外に目を向ければ、上下一面の蒼と碧の中を、飛行機は疾走している。ウミドリ達と並行して、機体が切る外の風は、きっと冷たい。身を晒して冷やすのは、さぞ気持ちよいだろう。  だが、そうしたいとは思わなかった。内側から湧き上がる熱情は、いまにも身体と心を焦がしてしまいそうだったけれど。  その熱さは空を翔けるようで、なんだかとても、心地がよかったのだ。
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