忘れられないデート 会長

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水が光を反射し、魚が尾を揺らすたびにキラキラと輝いている。 綺麗な透き通る水の中を泳ぎ回る魚達は自由で楽しそうだ。 水族館には3年ぶりくらいに来たがやはり何度見ても美しいと思う。 サングラスで色が見えないのが残念だ。 「綺麗だな」 隣で見ていた会長もぽつりと言葉を溢す。 会長を見上げると薄暗い中、水中の光を浴び何処か憂いを帯びているように見える顔は俺でもグッときた。 これで性格も良かったらな……。 なんて思いつつ、一緒に館内を歩き回る。 『会長って水族館へ来たのは初めてなんですか?』 腕を軽くトントンと叩き、画面を見せる。 やはり声が掛けられないというのは不便だな。 画面を覗き込んだ会長は少し考えた後、言葉を探るように視線を流す。 「いや、小さい頃に一度だけある」 『へぇ…、家族とですか?』 「ああ、父が連れてきてくれた。もうその時の記憶はないがな」 「……?」 何か嫌な思い出なのだろうか。 気のせいかもしれないが一瞬雰囲気が変わった気がした。 俺が知ることではないけれど。 これ以上は踏み込んではいけないような気がして会話が途切れる。 少しの沈黙の中、ひとつの水槽に目を引かれる。 「あれは…、クラゲか?」 『そうみたいですね』 近寄ってみると「アカクラゲ」と札に表示されていた。 長い触覚を揺らしながらゆったりと泳ぐ姿がスローの世界を見ているみたいで不思議な気持ちになる。 「アカクラゲか。確か別名はハクションクラゲだな」 『ハクションクラゲ?』 「このクラゲが乾燥すると毒をもった刺糸が舞い上がり、それが人の鼻に入るとくしゃみを引き起こすからその別名が付けられたらしい」 『へぇ…凄い。物知りなんですね!』 これは普通にすごい。 魚の勉強なんて授業でしない筈なのに覚えているなんて、やはり頭は良いのか。 尊敬度+1だ。 「ふん。当たり前だ」 『流石博識!!説明役お願いします』 「任せろ」 ふふん!と字幕がつきそうなほど鼻を立てている会長。 単純だな。扱いやすそう。 そのままゆったり歩いていると外へ繋がる扉を見つける。 『ちょっと出てみません?』 「ん?ああ」 会長の手を引き外へ出る。 どうやら会場ではイルカのショーの練習をしているらしく、ちょうど良かったので見ることになった。 1番前の特等席へ移動し、イルカのショーを楽しむ。 初めは練習だからあまり迫力がないかな?と思っていたが、こちらに気づいた女性の係員が会長を見てやる気を出していた。 しかも本当のイルカショーのようにアナウンス付きだ。ナイス会長。 イルカ達はボールで遊んだり次々と芸を披露してくれた。 それが成功するたびに餌を与えられ美味しそうに頬張るイルカ。可愛い。 会長は初めて見るイルカショーに興奮気味な様子。 良かったと思いながら視線を戻すとイルカがかなり近くまで来て泳いでいた。 どうやら今から飛ぶようだ。 透明な水槽なのでイルカの様子がよく見える。 一度深く潜ってからくいっと上へ方向転換し、そのまま勢いよく登っていく。 静かに水面から出て、とても高く飛ぶイルカは空中で止まっているようで胸が高鳴る。 飛んだ時に水滴が弾け、日光に照らされキラキラと輝く。凄い迫力だ。 小さい時からイルカショーは特別感があって好きだったが、今でもそれは変わってないようだ。 余韻に浸っているとイルカが水面へ落ちていく。 気づけば目の前には大量の水が俺たちに襲いかかっていた。 「「………」」 ザバァッという音と共に頭から爪先まで全身に水を被る。 ポタポタと髪から水滴が落ち、地面を濡らす。 ……何故このことを忘れていたんだ。 友達と来た時なら「わっ、びしょびしょだ!」なんて笑い合えていたが……、相手は生徒会会長様だ。俺様の。 先ほどまでのワクワクした感情は跡形もなく消えてしまった。今の俺は無だ。 会長の顔を見ることが出来ない。 血の気をサーっと引き、身構える俺の耳に入ってきた声は想像と違うものだった。 「ふっ……」 「……?」 「あははっ!くくっ」 聞こえるはずのない笑い声に頭がこんがらがる。幻聴…? そんな訳も無く、横を見ると会長が腹を抱えて笑っていた。 「こんなに濡れたのは初めてだ!」 満面の笑顔で笑う会長に少しの幼さを感じる。 予想外の展開に脳が追いついていないが、取り敢えず良かった。俺の人生はまだ続くようだ。 自分の未来に安心していると、しだいに会長の笑顔に釣られて俺も笑いが込み上がってくる。 「ふはっ、」 少し声を出してしまうと会長がこちらへ顔を向ける。 一瞬目を見開いたが、すぐに視線を前へ戻す。 「濡れてしまったな」 『そうですね』 スマホも水に濡れてしまい焦ったが防水付きで良かった。無事のようだ。 『お土産売り場でTシャツでも買いますか?』 「そんなものがあるのか」 『はい!思い出ついでに買って行きましょうよ』 「そうだな」 俺たちはイルカショーを見終え、お土産売り場へと足を向けた。
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