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保坂先生、助けて!
「…なんか入ってます?」
あたしの目線は先生の胸ポケット。
よく気づいたね、と先生がそっと取り出したのは…桜貝!!
「お守りですか?」
「そう、よくわかったね」
見せてくれたのは、記憶にあるのとそっくりな桜貝。
「あたしも持ってます、それとすごく似てるの」
ドキドキしながら言っちゃった。
「春野さんも?偶然だね」
「え、あたしの名前…」
「新人さんでいつも笑顔でがんばってて、キラキラしていいなぁって元気もらってるよ」
って笑ってる。
「うれしいです!これからもよろしくお願いします!あとドリンクめっちゃうれしいです、喉カラカラで」
「ほんと助かったよ、ありがとう、こちらこそよろしくね」
桜貝の話は途中で終わってしまったけど、もしかして同一人物?
確認するすべはなく、なかなか会える機会もない。
涼しくなって通勤と仕事にやっと慣れてきた頃、同業者と交流会が開かれた。
行ってみると合コンで、つまんない、早く帰りたいと思いながら適当に相槌打ってたら、気になる人とかいる?今度映画でもどうかな、って突然肩抱かれた!
ちょっと待ってやめてよ、って言いたいのに声出せない。
「春野さん?」
そばを通りがかった先生が声かけてくれて、たぶんあたしの涙目に気づいて
「ウチの大事なお嬢さんに気安くされたら困るな」
サラッと引き離してくれた。
「え、春野さんと保坂先生って、そんな?」
その人、目をパチクリさせてる。
「ちょっと、春野さん借りてくよ」
「…はぁ」
保坂先生、またあたしを助けてくれた。
「つきあいも大変だな、お疲れさん」
お店を出て、先生に頭ぽんぽんされたらどうしよう、涙止まんない。
「よかったらウチ来る?すぐそこなの、散らかってっけど」
泣いてて返事できない。
「とりあえずおいで」
イヤな気持ちが渦巻いてて、ひとりになりたくない。先生はそんなあたしの気持ちを察して、おいでって言ってくれたのかな。先生優しくてまた泣けてきちゃう。
先生のおうち、病院近くのタワマン。ビックリしすぎて涙止まっちゃった。
「すごいトコ住んでるんですね」
「通勤時間もったいなくてさ、やっと帰ってもすぐ呼ばれるし、ほぼ寝に帰るだけ」
「…そうですよね」
お疲れなのに悪いなと思ってたら
「少しゆっくりしてって、ちょっと話そ?」
「…ありがとうございます」
オトコの人のひとり暮らしの部屋なんて初めてだけど、おことばに甘えちゃおう。
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