第一章・ー邂逅ー

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「だから今朝気付いたんですよ!」  イグレシオン署陰契課内で、何やら勢い込んでテイラー=イースタンが、デスクを挟んで座っているシェイカーに話している。  長い黒髪を一つに束ねた、目付きの鋭いテイラーが、パリパリの紺のスーツに赤いネクタイで、いつもより幾分か身だしなみにも気を使っているようだ。 「へぇ。……で?」  対するシェイカーはというと、ボサボサの金髪に眼鏡、そして服装はコバルトブルーのシャツに白衣を羽織り、ブラックの、よれよれのスラックスといった、身だしなみという行為をどこかに忘れてしまったような格好なのだが――。 「いやぁ、今日って二月十四日だなぁって」  シェイカーの冷ややかな振りに、何故か照れながらの返しがきて、更に冷たい表情になる。 「それは先刻聞いて理解したよ。で、今日が二月十四日なら、何かあるの?」  すると、それに答えようとした息子を遮って、ロイナス=イースタンが意味ありげに、にやにや笑いながら発するのだ。 「今日はバレンタインだからねぃ。もらえるかもって、期待しているんだなぁ」  こちらはいつもの髪型にいつもの、よれまくった紺のスーツと紺のネクタイで、全く変わらないところが何か逆に悲しい。 「……何を?」  駄菓子菓子、だがしかし、本気で理解していない風に返すシェイカーは、世間からずれた発言で目の前の親子に盛大なため息を吐かせたのだ。
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