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「本当の、自分を呼べと、願いつつ……」
本日の依頼主……
西園寺希流亜氏は、スーツの内ポケットからガラスの小瓶を取り出し、テーブルに置いた。
65歳と聞けば疑いたくなる程若々しく、すらりと背も高い。180はあるか。
大学で長く教鞭を執っていたと言う、頭の良い人独特の知性の輝きを持つ双眸は、子供の様に澄んだ輝きをも同居させている。
「御覧あれ。そんな願いの集大成」
そんな人物が、こんなショボい探偵事務所の安い椅子に座り、何やら重たい台詞をのたまっておられる。
「これが……ですか?」
着ておられるごく普通のスーツも一流ブランド品に見えてしまう様なダンディー。
インスタントコーヒーを出してしまったのを後悔したくなる様な立派な紳士、かっこいいおじ様だ。
真剣な顔で言われると、ガラス瓶の中の白い錠剤が何だか禍々しいオーラを放っている様に感じてしまう。
「人間は、誰もが闇を抱えてる」
「はあ」
「そうでしょう?私も君も、誰もかも」
しかし。
しかし名前が『西園・ジキル・亜』で。
背の高い紳士で。
「その闇を、開放したいと願ってる」
さっきから闇がどうのと。
しかもこの人。たまたまなのかわざとなのか、ずっと五七五で話してる。季語はないけど。
「だから日々、研究をしていたのです」
……ジキルと……ハ、俳句?
「この胸の、闇を開放する為に。
そして願いを遂に叶えた!」
短歌になっちゃった。
いやでも、分かりにくいけどなんか凄い事を仰っておられるぞ?
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