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「探偵さん。それでは宜しく頼みます」
丁寧に頭を下げて。
そして、俺の中での格付けを下げて。
西園寺氏は帰って行った。
依頼の内容を分かり易く日本語でまとめると。
西園寺氏が発明した新薬の効能。
なんと、服用して夜になるとまったくの別人……心の中で押し殺している、こうでありたい自分……に変身してしまうと言う。
姿形も年齢も自由自在。
しかし薬の効果は夜だけで、元の西園寺氏に戻ると、変身していた間の記憶は残らない。
「お願いだ。今夜私がどうなるか。
何をするのか見ていて欲しい。
怖いのだ、自分が何に変わるのか。
どんな邪悪が顔を出すのか。
その様を、ただありのまま記録して。
包み隠さず教えて欲しい」
ジキルと夜、か。
こいつは危険な夜になるかもな。だが。
「ただ君よ、もし危険なら逃げてくれ」
そんな事言われて逃げる訳に行くかよ。こちとら空手柔道剣道合わせて八段。
(格付けはダウンしたものの)あの愉快な紳士を犯罪者にしてたまるか。
いざとなったら止めてみせる。
ジキルの騎士になってやるさ。
正直、そんな薬があるもんか、と思ってる。
しかし、背の高い温厚な紳士が、本能的な不快感や恐怖を感じさせる醜悪な小男に変貌する物語……
ジキルとハイドは読んだ事はなくても誰もが知ってる。
そして西園寺氏は当然、気付いているはず!
自分の名前に「ジキル」が入っていると!
子供の頃はからかわれたりしただろうし、研究しながら「よーしジキルとハイドになってやる!」なんて考えてたかもしれない。
だから実際には薬にそんな効果はなかったとしてもだ、強い思い込みとか自己催眠とかで彼は変身している可能性がある。
きっとそうだ。
ああ見えてノリやすい性格だもんな。
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