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そして午後8時。俺は西園寺氏のお宅に張り込んだ。今頃、例の薬を飲んでいるはずだ。
本人に気付かれない様に外から監視、何か動きがあれば様子を窺い撮影、または踏み込む。
幸い雨は降らず風も止んだので助かった。何しろこのお宅、鬱蒼と生い茂る緑に包まれた、山の上にある洋館風の一軒家である。ホラーの定番かよ。
まあ潜んで見張るには好都合だが。
こんな場所に一人で住んでたら、確かに心の奥底に凶悪なハイドがいてもおかしくはないなあ。
かっこいいのに独身なのはまあ、なんとなく分かる気がするが、お年なんだからもっと便利の良い所に引っ越せばいいのに。
念の為に調べてみたが、この辺で最近、犯人不明の凶悪犯罪みたいなのは起きていない。
やはりそんな魔法みたいな薬なんて無いに違いない。
だが依頼されたからには、証拠を示して安心させてやるのが仕事だ。
午後9時。部屋の灯りが消えた。
お休みになられたか。
このまま朝まで何も起きなければ良いが……
とにかく待つしかない。
午後10時。
静かに夜は更けて行く。
午後11時……っ!!
微かに女性の叫びが……
間違いない、確かに聞こえた。
──キイイッ……──
そして玄関がそっと、そっと開いて。
中から何者かが出て来る……!
ああ、背が低い。体が小さい。
顔を確認するまでもなく、明らかに西園寺氏では、ない。
木の陰に潜んだまま、俺はカメラを準備。
ごくり、と喉が鳴る合図で臨戦態勢を整える。
まさか本当に、西園寺氏の研究は完成していたのか?
心の闇を呼び出す事に成功したと言うのか!?
ジキルとハイド。
あの、ちょっと変わってはいるがダンディーな老紳士が。
醜悪な風貌の邪悪な小男に……っ!?
やがて、やがて人影は笑いながら両手を大きく広げ、空に向かって叫んだのだ!
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