噓とエッセイ#8『二階』

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 小学校低学年くらいまで私の部屋は一階にあった。今はリビングとして使われている部屋だ。  勉強をしようにも。同じ階にある元リビングからの音がうるさくて、なかなか集中できなかったのを覚えている。  なので部屋を変えてほしいと親に直談判したのが、小学二年生の終わり頃だった。普段めったに意見をしない私が珍しく発した主張だった。  親は意外なほどあっさりと、私の主張を受け入れてくれた。今にして思えば、もっと強く訴えても良かったと思う。子供の頃の集団の中に溶け込もうと必死な態度が、今の消極的な私を形作っているのだから。  協力して勉強机を二階まで運び、私の二階部屋生活はスタートした。  実家の二階には部屋が二つあり、私に割り当てられたのは、階段により近い方の部屋だった。壁の一面全てが扉になっていて、しかも半透明のガラスが埋まった格子戸だった。中にいるかどうかすぐに分かることも、親にとっては都合がよかったのかもしれない。  ただ、階段を上がっただけなのに、一階と程よく隔てられて、どことなく落ち着いたのは確かだ。親からの干渉も、階段を上るという手間が抑止してくれるような気がした。  騒音も少なくなり、私は以前よりかはいくらか真面目に勉強に取り組むようになった。小学校のテストは比較的満点を取りやすかったので、私はよくいい点数を取っては一人でほくそ笑んだものだ。親に見せて大っぴらに褒めてもらうのはなんだか恥ずかしかった。  弟がすぐ嫉妬する性格だったのもあるかもしれない。彼も成績は良い方だったのだが、親はどちらかというと私に目をかけていた。私が自信がまったくない性格だったからだろう。  まあその親の目論見は上手くいかず、今も毎日、ダメ人間だと自分を責めたてているのだけれど。
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