噓とエッセイ#8『二階』

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 受験勉強も二階の部屋でした。私の志望校はそこそこの私立大学。とはいっても強くやりたいことがあったわけではなく、単に東京への憧れが私を突き動かしていた。  部活をやめていた私は、時間だけはあったのでひたすら机に向かい続け、ることができれば格好よかったのだが、実際は古文や英単語などは、ベッドに寝そべって覚える時間の方が長かったように思う。  DSのソフトには単語帳もあって、オリジナルの単語帳を作り、それをこまめにチェックしていた記憶がある。もちろん途中で寝落ちてしまったことも一度や二度ではない。布団の心地よさは、何物にも代えがたいのだ。  そして、無事志望校に合格した私は三月、上京のために二階の部屋を離れることになった。それでも、また年に数回は帰ってきて、ここで眠るのだと思うと、あまり寂しさは感じなかった。  東京の部屋に持っていったのは本棚とCDプレイヤー、あとはピロウズのCDぐらいだったから、また部屋に入ればここで過ごした日々がすぐに思い出されるだろうという確信もあった。  とはいえ最後に部屋を整頓して掃除機をかけていると、どんどんと部屋が他人行儀になっていく奇妙な感覚があった。これでもう終わりと言われているような。そんなずしりとくる重たい感覚だった。
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