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 安藤は、ぶつけられた石が体を貫通したことに驚いていたが、その状態で人間がこうして「話をしている」ということにも二重に驚いていた。……こんな風になっても、まだ生きているんだ。これが生命の神秘ってやつなのかなあ……。と、そんな呑気なことを考えている場合ではないのは、安藤も十二分に承知していたのだが。 「は、博士……」  ふいにその声が聞こえて、安藤は声のする方を振り向いた。咲月が目にいっぱいの涙を溜めて、どてっ腹に穴の開いた博士を見つめていた。 「咲月くん、心配することはない。今あそこで男たちをなぎ倒している2人のように、君も強くなっているはずだ。我々男たちは残念ながら、君たちより先に滅びていく運命なんだよ。たださっき言ったように、通常の男たちより腐敗の進行が遅い者が、きっとどこかにいる。君たちは強く生きて、その男たちを見つけ、新たな時代を築いてくれ……」  博士の言葉はそこで途切れ、咲月に向けた穏やかな笑顔も、固まったように動かなくなった。恐らく、言うべきことを言い残し、そこで息絶えたのであろう。……やっぱりお腹に穴が空いたら、そう長くは生きられないか……。「博士……!」両手で顔を覆って泣き崩れる咲月を他所に、安藤がそんなことをぼんやりと考えていると。 「あ、安藤さん!!」  瀬里奈が必死に叫ぶ声が、安藤の耳に届いた。瀬里奈と加奈子が手強いと感じたヤンキーの数名が、その2人よりはか弱そうな咲月を見つけ、そちらに突進しようとしているのだ。つまり、安藤がいまいる方へと。  ……ここは俺が壁になって、咲月ちゃんを守るべきか? でも俺の手も首も、じきにもげちゃいそうだもんなあ、いつまでもつことやら……。  瀬里奈と加奈子は自分の周囲にいるヤンキーたちで手一杯で、安藤を手助けする余裕は無さそうだ。こちらに向かっている数名はそれを見越して、咲月を狙おうと考えたのだろう。そこで安藤が、ちらっと咲月の方を見ると。咲月は腕っぷしに自信がなかったのか、着ている服のポケットに、何本かの薬品の瓶を詰めていた。
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