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それは、ある日突然。何の前触れもなく、本当にさりげなく、始まった。
田舎町に住む30代の会社員・安藤正和は、未だ独身で、ここ数年はいわゆる「浮いた話」の類に、とんと縁がなかった。特に結婚願望が強いわけではないが、人並みに性欲はあるし、いい女と夜を過ごしたいという気持ちも十二分にある。ただ、なぜかそういう機会に恵まれなかった。それは恐らく、自分が「真面目過ぎる」からなんだろうなと、安藤は考えていた。
真面目な性格ゆえに、会社の女子社員や、居酒屋の若い女子店員などに話しかけても、嫌な顔をされたりすることはない。だが、どうしても「そこから先」へ進むことが出来なかった。まるでそこには、「越えられない高い壁」が存在するかのように、安藤の行く手を阻んでいた。
そのくせ、ちょっと気になる女性がいたとしても、気が付くと会社の同僚や、居酒屋に一緒に飲みに行った友人と、いつの間にかくっついていたりする。何をどうすればそんな風に上手くいくのか、いとも容易く「越えられない壁」を越えることが出来るのか。安藤には全くわからなかった。
かといって、風俗通いをするほど恵まれた給料をもらっているわけでもなく、カードローンやサラ金に手を出してまで……という踏ん切りも付かなかった。そういうところが「真面目」ってことなんだろうなと、自戒しつつ。仕事を終え、アパートの自室に帰った安藤は、早速ノートパソコンの電源を入れ、「お気に入り」に登録してあるアダルトの動画サイトにアクセスした。
部屋に戻り、スーツを脱いでジャージに着替え、腰を落ち着けてから、パソコンを「よいしょっ」と開く。この一連の流れが、もはやルーティーンと化していることに、「なんだかなあ」とため息を突きながらも。動画サイトの「新作」のコーナーに、お気に入りの女優がいるのを見つけ、思わず「おお!」と喜んでしまう自分が、安藤は我ながら情けなかった。
しょうがない、これが「男の性」ってもんさ……などと、何の言い訳にもならない言葉を思い浮かべ。安売りの缶ビールをプシュッ! と開けながら、さあて「新作」をじっくり堪能するか……と、思った時。安藤は、体のわずかな「異変」に気付いた。
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