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 そういえば仕事を終えて電車に乗った時、なんか腕が「むず痒い」ような気がしたんだよな……ここんとこ続いてた雨と、混み合う電車内との相乗効果で、「汗疹(あせも)」みたいなものが出来たのかなとも考えたが。スマホでメールとLINEのチェックをしているうちに、すっかり忘れてしまっていた。  普段はそんなに小まめなチェックなどしないのだが、ここ最近は、ちょっと事情が違った。先日参加した合コン……というほど、艶めかしいものではないのだが。会社の同僚である須田博之(すだひろゆき)が発起人となり、それぞれの友人を誘って「出会いの輪を広げよう」というテーマの元に行われた、飲み会があった。ここ1,2年は、コロナ禍でそういう機会がめっきり減っていたので、誘われた女子たちも「久し振りに、わいわい騒ぎたい」という思いがあったのか。予想以上に、女子の参加率も高かった。  本来なら、これは願ってもないチャンスだ! と、初対面の女子たちとぜひとも親睦を深めたいところだったのだが。「予想以上の女子参加率」が、逆に安藤を、極度の緊張状態にさせてしまった。自己紹介がてら話しかけても、高校はどことか好きな芸能人は誰とか、ありきたりの話題しか出来ず。我ながら「つまんねー奴だな、俺って奴は」と認識せざるを得ない状態だったが。自分でそう思っているくらいだから、話しかけられた女子はそれ以上に「あー、つまんない、早く話終わらないかな……」と考えていたことだろう。  それでもなんとか安藤は、参加した女子の中でも「本命」と目を付けていた女子と、LINEの連絡先を交換することに成功した。乾瀬里奈(いぬい せりな)というその女子は、しつこく食い下がられて、仕方なく……という風でもあったが、それでも安藤にとっては、「よくやった、よく粘ったぞ俺!」と、自分を誉めてあげたくなるような、「大金星」だった。  安藤は早速瀬里奈と、LINEでのやり取りを始めたのだが、いきなり2人きりのデートに誘うのもなあ……と考え、「またみんなで集って、盛り上がりたいね」など、当たり障りのない言葉を送るに留めていた。それに対し瀬里奈の返事は、ひと言の言葉も入力せず。どう解釈していいものか判断に困るような絵柄のスタンプが、「ぺたり」と張り付けられているだけだった。
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