3 分厚過ぎる手紙

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3 分厚過ぎる手紙

 時間の流れは時にとても非常なもの…。夜空を見上げれば、月はとうとう満月になってしまっていた。 「はあ~。ついに満月になってしまったわ」 ため息をつきながら、今まで書き溜めた2週間分の手紙をトントンと束ね、丁寧に封筒に入れると中身はパンパンになってしまった。 「こんな分厚い手紙…リアムは読んでくれるかしら…。ううん、でもきっと大丈夫。だってリアムは優しいもの。必ず読んでってお願いしたら絶対に読んでくれるはずよ。後はお父様にリアムとの婚約解消のお話をしにいかなくちゃ」 時計を見ると時刻は夜の8時になっている。父はお酒が大好きな人だ。今夜は夕食の席でお酒を飲んでいなかったので、そろそろ自室でお酒を飲み始めている頃かも知れない。父がお酒を飲んで酔っている時にリアムとの婚約解消を申し出よう。 「後で婚約解消の話なんか聞いたことが無いと言われないように、証文を書いておた方がいいかもね…」 私は再びペンを手に取ると、リアムとの婚約解消を申し出る証文を書いた。 「よし、書けたわ!後はお父様に目を通して貰ってサインをして貰いましょっ!」 書き終えて証文を持って私は父の部屋へと向かった。 コンコン 「…」 「返事が無いわね。恐らくかなり出来上がっているかも…」 私は深呼吸をするとドアを開けた。 「お父様、失礼します」 部屋の中へ入ると父は既に半分程出来上がっていた。ワインの瓶を前に父の顔は赤ら顔で目は明らかにトロンとしている。そしてテーブルの上にはおつまみのチーズとサラミが乗っていた。 「おとう様、飲んでますか?」 言いながら父に近づくと、顔を上げて私を見た。 「おお、おお。私の可愛いクリスじゃないか。何の用だい?」 言いながら父はワインをグラスにトクトクと注いでいる。 「はい、お父様。大事なお話があります。実はリアムとの婚約を破棄させて頂きたいのです。よろしいでしょうか?」 「ああ、破棄か?よしよし、可愛い娘の頼みだ。どんな望みでも聞いてやるぞ?それで私は何をすればいいのかな?」 父はニコニコしながら私を見ている。 「はい、簡単な事です。この書類にサインして頂ければ十分です」 私は持っていた書類を父のテーブルの上に置いた。 「ふ~ん…これにサインすればいいんだな?どれどれ何て書いてあるのかな…?」 「いいえ、お父様。大した内容では無いので目を通されなくて大丈夫ですよ。ただ、ここにサインして頂ければいいんです。ペンなら持ってきています。はい、どうぞ。ああ、違います。ほら、ここです。そうそう、上手にサインできましたね」 「そうかい?上手にサインできたかい?」 父はふにゃりと笑って私を見た。 「はい、これなら完璧です。それではどうぞお酒の続きを楽しんでください」 一礼すると私は父の書斎を後にした。 部屋に戻ると、私は父にサイン入りの証文を引き出しにしまった。さて、いよいよ明日はリアムにこの手紙を渡してお別れを告げるのだ―。  翌朝― いつもより早めに学校へ着いた私は正門でリアムがやって来るのをじっと待っていた。するとほどなくしてリアムの姿が見えてきた。 よ、よし…。 思い切り深呼吸すると、私はリアムの前に飛び出した。 「リアム様っ!」 「うわあっ!ク、クリス!」 リアムは驚いて、数歩飛びのくと言った。 「ああ…驚いた。おはよう、クリス。会うのは2週間ぶりだね?どうして今まで姿を見せなかったの?」 笑顔で言うリアムの言葉にグサリと私の心は傷ついた。そんな風に思うならリアムから会いに来てくれればいいのに…・。だけど、こんな未練たらしい言い方は実に私らしくない。 「ええ、リアム様が学園祭で忙しそうだったのでお邪魔しないように離れていたんです。そしてこれからはリアム様の人生を邪魔しません。本日はその事を告げに来たのです」 「え…?僕の人生を邪魔しない…?何の事?」 リアムはポカンとした顔で私を見ている。 「ええ、リアム様から私と言う足枷を外してあげますという意味です。リアム様はもう鎖に繋がれた鳥ではありません。大空に自由にはばたけるようにして差し上げるのです」 「う~ん…どうもクリスの話している言葉は抽象的で意味が分からないからもう少し分かり易く説明してもらえないかな?」 するとその時…。  「リアムッ!」 え…?リアム…? 振り向くとそこにはナディアが私を睨み付けている姿があった。 「やあ、おはよう。ナディア」 リアムは笑顔で挨拶をする。 え…?ナディア…? そんな…いつの間にか2人はファーストネームで呼び合う仲にまで発展していたなんて…。 思わずショックでグラリと身体が傾き―。 「危ないっ!」 私は支えてくれた相手を見た。その人物はナディアだった。いやいや…普通そこを助けてくるのは本当はリアム、貴方ではないのでしょうか? でもこれではっきりした。私はリアムにとってはミジンコ以下の存在なのかもしれない。 「あ、ありがとうございます…」 私はナディアから離れると頭を下げた。 「いいえ、大丈夫です。それより顔色が悪いようですけど大丈夫ですか?今すぐ医務室に行かれた方がよろしいのでは?」 つまり、早く何処かへ行ってくれと遠回しにナディアが言っている事はすぐに気づいた。一方のリアムは黙って私を見つめている。 「あの…リアム様。このお手紙…読んで下さい」 私はカバンからパンパンに膨れて今にも封筒が破けそうになっているほどにずっしりとした手紙をカバンから取り出すとリアムに渡した。 「ええっ?!こ、これ…手紙なの?」 リアムはA5サイズの茶封筒を受け取ると目を見開いた。 「まあっ!これがお手紙ですか?!」 一方のナディアも驚いている。…確かに量が増えすぎてしまったのは少し反省している。A5のレターセットに毎日5枚ずつ手紙を書いていたので、合計70枚になってしまったのだ。量りで測ったところ300gあったし。 「申し訳ありません。少し量が多くなってしまいましたが。。そこには私の思いがエッセイとして書かれています。どうか目を通していただけませんか?ちなみに70枚目が一番肝心な部分ですから。」 「ああ、そうなんだね?僕に内容を読んでもらって確認してもらいたいんだね?」 リアムは笑顔で答えた。 「はい、そうです。全て目を通して頂いて確認(私の気持ち)してください。よろしくお願い致します」 「うん、分ったよ。毎日少しずつ目を通すね」 優しい目で私を見つめるリアム…。でもそれも今日が最後。だって今私は自分の気持ちをつづった手紙を渡したのだから。 「ええ。なるべくゆっくり時間をかけて呼んで頂けますか?出来れば2カ月程時間をかけて…」 「えっ?!」 リアムはギョッとした顔を見せた。 「まあっ!2カ月もかけて読ませるのですか?!」 再びナディアが口を突っ込んできた。 「はい。お願いします」 だってそのページには婚約解消の申し入れが書いてある。出来れば少しでも別れの時を長く引っ張りたいから…。 それにしても…。 私は並んで立っているリアムとナディアを見つめた。何てお似合いのカップルなのだろう。私みたいな平凡な人間には2人の姿は眩しすぎてクラクラしてくる。 「そ、それでは私はこの辺で失礼しますっ!」 「え?!クリスッ?!」 リアムの戸惑う声が聞こえた。 だけど私は振り返らない。 さよなら、どうかナディアさんとお幸せに―。
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