─宵越し

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* ─── 【優しい】うちの地域のぼーそーぞく【本当(ガチ)で】 141:名無しさん なるほどね……話通じる暴走族とかフィクションだけだと思ってたわ、すげー 142:名無しさん 釣り乙とか言ってスマヌ 143:>>1 >>42 ええよ 144:名無しさん やさしいせかい 145:名無しさん フェイク有りらしいから自信ないけど、たぶんワイもそこ住んでるやで 146:名無しさん !? 147:名無しさん 証言者キターー!! 148:名無しさん >>1 五十三番地トイレの落書き「回心転意」「虚心坦懐」「忠勇義烈」 149:名無しさん ……そこほんとに治安悪いの? 150:>>1 >>48 合ってるやで 151:名無しさん 合ってんの!?!?!? 152:名無しさん 魅入られてるみたいで、ちょっと心配やな 153:名無しさん 何に? 153:名無しさん 『人魚』に ─── * 「──お前、俺のチームに来ねえ?」  立襟(たてえり)に紐釦の短衫(トァンサン)褲子(クーツ)といったチャイニーズルックな格好に黒のレザーコートを合わせ、玉虫色の丸いサングラスまで着用した、一目見て「関わり合いになりたくない」と感じさせる怪しい青年。  このようなチンピラに声をかけられるに至った経緯を説明しよう。  眠れない日が続くので、いっそ学園外で眠ればいいのでは? と思ってホテルを予約しに塀の外に出た俺は、夕方、通りがかりに良い感じのレザーの専門店を見つけた。  即決で入店したのは確かに少しばかり無計画だったと思う。しかし、この街にしては荒々しさのないシックな外装のとおり落ち着いた雰囲気の店内は、俺のメンタルヘルスにとても宜しかったのも事実であった。  一通り店内を見て回って、肌馴染みのいいレザーのグローブを手に、俺はレジに向かった。  するとそこには、前述のチンピラ(推定十八歳)がいた。何やら店員と話が盛り上がっている様子だったこともあり、俺は彼が店を出るのを待って、それから精算を行った。  扉のベルをからから鳴らしてほくほくの顔で外に出たところ、十分以上前に退店したはずの青年がなぜか目の前に立っていた。  そして冒頭に戻る。 「……ま、まにあってます」 「そー言うなよ。楽しーぜ、俺のトコ」 「いえ……」 「アブねーこともそんなに……うん、たぶん無い!」  それは有るときの言い方だろうよ。  そんな内心を見透かしたのか、チンピラは短い辰砂色(しんしゃいろ)の髪をがしがしと掻いて「ガハハ!」と豪胆に笑った。真っ赤な舌がちろちろと覗く。 「とにかく、まにあってンので……失礼します」 「あッ、ちょ……!」  やばい人だ。どう見てもやばい人だ。  容姿や振る舞いが、というよりも、この治安の悪い街で平気な顔してあの格好を出来るメンタリティがやばい。  絶対何かある。乙女ゲーでいうところのシークレットキャラくらい何かある。絶対そう。  糸目がいっそう細くなるのを見上げながら、俺はその脇をすり抜けるようにして走り抜けた。  チンピラは俺を追い駆けようとする。しかし風邪でもひいているのか、胸を詰まらせたような咳の音を繰り返し、いつしかそれも聞こえなくなった。  ちゃんと撒けたらしい。  逃走後も、念の為にだいぶ遠回りしてコンビニに入った。その中の落書きだらけのトイレで、白髪の(かつら)と赤いカラーコンタクトレンズを着けて変装する。  俺は学園生にとって有名人なので、こうして学園外に出るときは常に持ち歩いているのだ。  ちなみに、なぜこんな悪目立ちしそうな変装なのかというと、こういうのは派手な方が見ないふりをされるので効果的だからであって断じて厨二病とかでは無く……あれ、もしかしてさっきの人も同じ思考回路であの格好になったのでは…………まあいい。  実際問題、この格好でそのへんを闊歩出来るということはそれだけの技量があると見做される。  なら本物のアルビノ当事者が運悪く強い輩に出くわしたらどうなるんだ、という当然の疑問については後で説明するとして。  ともかく、その技量を上回る確固とした自信を持つ者しか因縁をつけて来ないのだ。おかげで今朝よりは随分と歩きやすくなった。  普通の街ならその真逆のことが起こるのだろうけれど──生憎、この街は普通ではない。  学園に来たばかりの頃、今日のように寝床を探して宛もなく彷徨っていた。  守り手のいない外界。男女の遊び場。冗談で血が流れるアンタッチャブル。眠らない国。歩き慣れた危険区域を見渡し、俺は足を進める。
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