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エピローグ
辺りを吹き渡る春の夜風が少女の体を優しく包み込む。
こんなにも心休まる夜は久々だった。
食料を求め少女は普段暮らしている森を抜けて遠く離れた草原へとやってきていた。
暗い夜道は今にも悪魔や魔獣が飛び出してきそうでとても心細かったが、その先に広がる光景を目にした時にはその恐怖もすっかり吹き飛んでいた。
「わあ、苺がいっぱい!」
少女の心が躍る。
気温も温かくなり旬を迎えた野苺があたり一面に生い茂っていた。
苺は少女の大好きな食べ物の1つだ。
小さくて柔らかいその実は空腹を満たすには物足りないが、口に入れた途端に広がる甘酸っぱい春の味は心を幸せな気持ちで満たしてくれる。
到着した少女はさっそく苺の収穫に取り掛かる。
色よく熟れた果実を1つずつもぎ取ると、家から持ってきた麦編みのバスケットの中へ放り込んでいく。
せっかく遠くへ出かけるのだからと一番大きなものを持ってきたのは正解だった。
バスケットは所々黒焦げており、片方の持ち手が取れかけている。
もしかしたらあまり入れ過ぎると帰り道の途中で取れてしまうかもしれない。
その時は雑草の葉や茎を使って取れたところを補修しようと少女は考えた。
こんな恵まれた機会はそう無いかもしれない。
できるだけ多く持ち帰りたかった。
バスケット一杯に持って帰ったら1週間ぐらいは持つかな……?
近頃は冬が去り段々と暖かくなってきたとは言え、日の当たらない所なんかはまだひんやりとした冷気が残っており食物を日持ちさせるにはちょうど良かった。
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