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正反対な君とのルーティーン
「おーい、朝だぞ!起きろ、優!」
朝から、部屋いっぱいにハーフの幼馴染みの声が響き渡る。
直後、耳元で鳴り響く、フライパンとおたまによって奏でられる不協和音。
私の幼馴染みは、朝にとても強い。
一方、私は……
「……健悟。お願いだから、後30分寝かせて」
「ばーか。そんなことしたら、お前、バスに間に合わなくなっちゃうじゃん」
生来の低血圧故か、非常に朝に弱かった。
だから――毎朝繰り返されるこのお決まりのやり取りも、私達の中では、ルーティーンの様なものなのだ。
「……ねぇ、健悟?毎朝言ってるんだけど、フライパンを鳴らすのは止めてくれないかな。頭にすっごい響くんだよ、あれ」
「はぁー?そういうことは、1人で起きられる様になってから言ってくださーい!」
あっかんべーと舌を出し、朝から元気に悪態をつきながらも、朝食を運んで来てくれる健悟。
(そう言えば、この生活が『普通』になったのは、何時からだったろう……?)
青い瞳の幼馴染みが作ってくれた温かいスープを口に運びながら、ふと、私はそんなことを考える。
そもそも、独り暮らしをしていた時は、1人でだって起きられた。
ただ、毎朝こんなに温かい朝食が食べられる生活が出来るなんて、夢にも思っていなかったのは事実だが。
と、私の思考を遮る様に、目の前で幼馴染みがひらひらと手を振ってくる。
「なぁ?美味い?」
きらきらと瞳を輝かせながら、そう尋ねてくる彼。
(……ああ、きっと今日の朝食は自信作なんだな)
分かりやすい健悟の態度に苦笑しつつも、私はそっと手を伸ばすと、目の前の幼馴染みの頭を撫でる。
「とても美味しいよ、ありがとう」
ふわふわしたアッシュブロンドの感覚が、掌にとても心地いい。
見ると、健悟も嬉しそうに目を細めている。
(……ずっと、こうしていたいな……)
思わずそんな気持ちに囚われかかるが、それを打ち消したのは他でもない目の前の幼馴染みだった。
「……優?そろそろ出ないと、バス行っちゃうんじゃね?」
「そうだね。ありがとう、健悟」
私は、最後に幼馴染みの頭をぽんぽんと2回撫でると席を立つ。
そうして、身支度を整えると、玄関に向かった。
「じゃぁ、行ってくるよ」
「あーっ!待て待て、優!弁当!弁当忘れてる!」
慌てて駆け寄ってきた幼馴染みから、弁当を受け取る私。
「いつも悪いね」
「いいって。料理してるの楽しいしさ。そうだ。今日の弁当、俺スペシャルだから!味わって食えよ!」
「ああ。ありがとう。とても、楽しみだ」
まるで、「えっへん!」という擬音語が聞こえてきそうな位胸を張る彼に苦笑すると、私は家を出る。
「じゃぁ、改めて、行ってきます」
「おう!気を付けてな!」
ぶんぶんと元気に手を振る健悟に見送られ、バス停への道を急ぎながら、私は少しだけ昔のことを考えていた。
(……そう言えば、健悟がうちに来たのは、2年前の今頃だったな)
バス停に到着し、やって来たバスに揺られながらも、2年前の出来事に思いを巡らせる私。
車窓では、風に散らされた桜の花弁が、ひらりひらりと空を待っていた。
まるで、昔の私の移ろう心を表しているかの様に。
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