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「リュウ、着替え置いとくぞ」
脱衣所から浴室に向かって謙太が声を掛ける。
「下着と寝間着オレのだけどいいよな」
「うん」
身長差はそれ程ない。
やや謙太のほうが筋肉質なくらいだ。
風呂から上がった龍之介に対し、謙太は何故か不満げな視線を向けた。
「おまえ風呂長くね?」
「そうか? ……って、十五分しか経ってねーじゃん」
「その十五分が何時間にも感じてだな、何度風呂場に突撃しようと思ったことか……」
「絶対やめろ!」
そう言いながら、二人は笑い合った。
「陽色は?」
「よく寝てる」
「そっか、良かった」
借りた寝間着に着替え、髪を乾かしてから、龍之介はベビーベッドを覗き込み、ズレた掛け布団を直してやった。
あれから陽色はずっと眠っている。
それなのに、いつ起きるか分からないからという理由で、謙太はずっとビクビクしていた。
「いつもは陽色がいて落ち着かないなんてことなかったんだけど」
「そりゃ親の責任感みたいなのが芽生えてきてるんだよ。なんかあったら自分が動かなきゃって思うから緊張するんだ」
逆に言えば、今の今までそんな気持ちになったことがなかったという証拠でもある。寧花に任せきりで、陽色の世話に対する責任を負ったことがないからだ。
「それよりさあ……」
先に風呂を済ませて寝間着姿になっている謙太を見る。同じデザイン、色違いのパジャマである。
「ペアルックじゃねーか」
「洗い替えだからな」
「ま、今日だけだからいいけど」
「えっ……」
今日だけ、と聞いて謙太の顔色が変わった。
「リュウぅ!!」
「ぎゃああ!!」
突然しがみつかれた龍之介は慌ててその腕を振り解いた。
しかし謙太は諦めず、両手を構えてジリジリと距離を詰め、再び肩を掴んで抱き寄せる。腕の中で必死に抗いながら、龍之介は顔をしかめた。
「ちょ、マジで苦しいんだけど」
「絶っっっ対に帰さんからな……!」
「離せ馬鹿!」
明け方もベッドで抱きつかれたが、謙太は力が強く、生半可な抵抗では抜け出せない。
離せば龍之介が帰ってしまう、と恐れている謙太は必死だ。
逃さぬよう更に腕に力を込める。
「帰んないって約束したら離す」
「わ、分かった、分かったから」
「ヨッシャ、言質取った! オレが良いって言うまで帰るなよ?」
「クソ、なんでそんなに偉そうなんだ……」
なんだかんだで謙太から頼まれると弱い。
この問題が解決するまでの間、龍之介は謙太のマンションに泊まり込むことを無理やり約束させられた。
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