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なんとなくギクシャクしたまま数日が過ぎた。
謙太は親友相手に発情してしまったことを気にして、出来るだけ顔を合わさないようにしていた。
龍之介も、謙太との関係をハッキリさせたいのに何も言えずに悶々としていた。
その間にも、謙太は度々仕事帰りにマンションの同じ階に住む女性と駅から一緒に歩いて帰っていた。この辺りに出没する変質者から守るためだ。
近所のよしみでボディガードの真似事をしているだけだと分かっていても、やはり気になってしまう。
日が落ちたばかりの時間に、龍之介は買い物に出ていた。
夕食の支度中、大根おろしにかけるポン酢を切らしていたことに気付いたのだ。醤油でも構わないのだが、謙太はポン酢を好む。だから、帰ってくる前にと急いで出掛けた。
一番近くのコンビニで品切れだったため、もう少し離れた店に行き、ようやく目当てのものを購入した頃、謙太から『今から駅を出る』とメールが届いた。
現在地は駅とマンションの中間地点。このまま少し待って一緒に帰ろうか。そう思っていた。
しかし、謙太が女性と談笑しながら歩いてくるのを見て、無意識に物陰に隠れてしまった。
不審者のこともあるから、最寄駅で会えば一緒に帰るのだと聞いていた。だが、外で並んで歩く姿は初めて見た。
小柄の可愛らしい女性だ。
数軒隣の部屋の住人だが、龍之介はあまり付き合いがない。エレベーターで何回か行き合ったことがある程度。その女性を守るように車道側を歩く謙太の姿に、少しだけ胸が痛んだ。
見つからないように隠れながら、薄暗い夜道を歩く二人を追い掛ける。
「なにやってんだ俺は……」
声を掛けて一緒に帰ればいいものを、何故身を隠してしまったのか。
完全に姿を現わすタイミングを失い、龍之介はやや焦りを感じていた。
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