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しばらく進み、次の角を曲がればマンションに着くといった所で前方に不審な人物を発見した。
サングラスとマスクで顔を隠している中肉中背の男だ。
電柱の陰に隠れ、謙太と女性の姿を目で追っている。
──件の変質者か。
気付かれぬよう後ろからそっと忍び寄り、男の肩を掴む。
「あの二人に何か用ですか」
「ヒッ!」
突然声を掛けられた男は飛び上がって悲鳴をあげた。逃げようとしたが、肩を掴まれていて動けない。
「すいません、すいません、違うんです!」
男が半泣きで喚くので通行人たちの注目を集めてしまった。その騒ぎを聞きつけ、前を歩いていた謙太たちも振り向いた。
「あれ、リュウ。なにしてんの」
龍之介に気付き、笑顔で駆け寄ってくる。
「怪しい人を見つけて声掛けたとこ」
「え?」
それを聞いて謙太はスッと笑みを消し、龍之介が捕まえている男を睨み付ける。
しかし。
「トモ君! なにやってんの!!」
「ゆ、ユカちゃあん!!」
なんと、不審者だと思われた男は謙太が送っていた女性の夫だった。
たまたま妻より早く帰宅した日に駅まで迎えにいったところ、知らない男と笑いながら歩いていたので後をつけていたのだという。しかも、今日が初めてではないらしい。
不審者情報の原因はこの人かもしれない。
「雨戸さんは親切で送ってくれてたのに浮気相手だと勘違いしたですって!?」
「だ、だってぇ……」
可愛らしい外見だが気の強い女性である。
夫である男性は終始タジタジの様子だ。
「すぐ声を掛ければいいのに、そりゃ不審者に間違われても文句は言えないわよ!」
女性の言葉は龍之介に刺さった。
声を掛けられなかったのは自分も同じだからだ。
「うちのダンナがホントすみません!」
「いえ。こちらこそ疑って失礼しました」
そう言って、マンションの廊下で夫婦と別れた。
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