383人が本棚に入れています
本棚に追加
/195ページ
これは突発的な家出などではない。
旅行カバンを持って出て行ったということは、事前に計画されていたということだ。しかも、連絡がつかないところをみると、彼女の実家もグルになっている可能性が高い。
「……とにかく、この子を布団に寝かそう。これパジャマだよな? なら風呂は済んでるか。……ていうか、いま何ヶ月だっけ」
「二月生まれだから、七ヶ月くらい?」
「じゃあ離乳食始まってるな。いま一回食? 二回食? まだミルク飲んでる?」
「わ、わからん。寧花がぜんぶやってて」
「休みの日に世話することくらいあるだろ」
「うーん、休みはずっと寝てるしな……」
このやり取りだけで謙太の奥さんが何故出て行ったのかを完全に理解してしまい、龍之介は頭を抱えた。
この男、父親としての自覚がない。
育児を妻に丸投げし、我が子の現在の状態すら把握していないのだ。
龍之介は数回顔を合わせただけの寧花に心から同情した。そして、現状をただ嘆くだけの親友に対し、ふつふつと怒りを燃やした。
最初のコメントを投稿しよう!