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第3話・父親の自覚が無さ過ぎる
寝室にあるベビーベッドに赤ちゃんを寝かせ、隣のリビングで再度聞き取りをする。
「寧花さんは専業主婦か」
「うん」
「じゃあ保育園とかは通ってないな」
「うーん、そうだと思う」
謙太の話はまったく当てにならない。
保育園に通っていないとなると、子どもの日中の預け先がない。
明日は平日。
このままでは謙太は仕事に行けない。
龍之介は部屋を見回した。目立つ場所に母子手帳ケースが置いてあった。謙太に了解を得てから中を見てみる。
【雨戸 陽色】
これが子どもの名前だ。
母子手帳を見れば、陽色は現在生後八ヶ月の男児であり、謙太が我が子の月齢すら正確に把握していなかったことが判明した。
以前、龍之介がこのマンションを訪れたのは出産祝いを渡すためだった。
当時ふたりは初めての子育てに悪戦苦闘していて、でも幸せそうだったと思い出す。
数ヶ月後にこうなるとは当事者の誰も予想していなかっただろう。
「とにかく、ケンタは明日仕事休め」
「え、でもオレ明日は大事な打ち合わせがあr」
「おまえは馬鹿か? 仕事と子ども、どっちが大事だと思ってんだ、ああ?」
龍之介が凄むと、謙太は途端に威勢を失う。
「そ、そりゃ勿論子どもは大事だけどさ、でもオレがクビになったら生活出来ないじゃん? それに、寧花だって子ども置いてくなんて育児放棄ってヤツじゃね? 母親なのに」
「……はぁ〜〜〜……」
龍之介は盛大な溜め息を洩らした。
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