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やはり駄目だ。
ここまで来て完全にまだ理解していない。
寧花の捨て身の意思表示は全く伝わっていない。
「おまえ、なんで寧花さんが子ども置いてったと思う?」
「わ、わかんねーよ、急だったし」
「本当に急か? おまえ、男は仕事さえしてりゃ子育てしなくていいと思ってないか? 嫁が専業主婦だからって子どもが出来る前と全く同じ生活が送れると思うなよ!!」
「……ッ」
龍之介からひと息に叱り付けられ、謙太は見るからに落ち込んだ。
明日からどうしたらいいか、そもそも今晩だって乗り切れるかどうか分からないから謙太は龍之介を頼ったのだ。
「おまえが一時間もしないうちに音をあげた子育て、今まで寧花さんは一人でやってきたんだぞ」
「……そりゃ、母親だから」
「今世紀最大のクソ馬鹿野郎か? 女には自動で育児機能が携わってるとでも? 寧花さんだって初めての育児で必死になって情報集めて頑張ってたんだよ。見ろ!」
バン!と龍之介はローテーブルに何冊かの雑誌を置いた。
リビングの片隅にあった育児関連の雑誌で、至る所に付箋が貼られていた。どれもページの端がヨレている。何度も何度も読み返された証だ。
それを見て、謙太は目を見開いた。
「…………オレ、どうしたら」
少しは反省したのだろう。
目の前の育児雑誌をぱらぱらと捲りながら、謙太は弱々しい声で呟いた。
「とにかく明日は仕事休め。会社に事情を説明すりゃ一週間くらい休めるだろ。その間に寧花さんに謝って戻ってきてもらうかどうにかしろ」
「う、うん」
「じゃ、俺は帰るから。しっかりやれよ」
そう言って龍之介が立ち上がると、謙太は慌ててその脚に縋り付いた。
「帰んの? この状況で?? 嘘だろ???」
「当たり前だろ」
「やだやだやだ困る困る困る」
「俺カンケーないもん」
「夜中に陽色が起きたらどーすんだよ!」
「は?」
「朝メシなに食わしていいかもわからん」
「はあぁ!??」
コイツに任せたら陽色の命が危ない。
こうして、なし崩しに龍之介は謙太のマンションに泊まることとなった。
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