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それからどれくらいの時間が経っただろうか。龍之介は何処からか聞こえる音で目を覚ました。
机の上に突っ伏したまま寝入ってしまっていたらしい。変な体勢で寝たせいで身体のあちこちが固まっている。何とか起き上がり、音の出所を探る。
それがマンションの玄関扉を叩かれている音だと分かった瞬間、龍之介はサッと青褪めた。
時間は日付が変わったくらいの深夜。
外は真っ暗で、室内も真っ暗。
そこに響き渡る扉を叩く鈍い音。
時折チャイムも鳴らされている。
酒に酔った不審者か、それとも近隣で何かトラブルがあったのか。このまま居留守を決め込もうかと思ったが、放置すれば周りの住民に迷惑が掛かってしまう。
警察を呼ぼうとスマホを手に取った時、知っている声が聞こえてきた。
「リュウ、いるんだろ!? リュウ!!」
「──ケンタ、なんで」
地元に帰っているはずの謙太が龍之介の家の前にいる。しかも、何度も何度も扉を叩き、大声を出して騒いでいる。
すぐに玄関へと向かい、鍵を開けようとして、そこで龍之介は動きを止めた。
扉越しに声を掛ける。
「……ケンタ」
「っ、リュウ! やっぱり居た!」
龍之介の声を聞き、謙太は嬉しそうな声を上げた。だが、一向に開かない扉に気付き、再びドンドンと叩き始める。
「おい、やめろ。何時だと思ってるんだ」
「開けてくれ。話がしたい」
「なんで俺んとこに来た。おまえは寧花さんと今後の話し合いをしてたはずだろ?」
「もう終わらせてきた。だから頼む、開けてくれ。でないとまた大声出すぞ」
扉の向こう側には謙太以外の気配も感じる。近隣の住民が騒音に気付いて出て来たのだろう。今は深夜だ。これ以上騒がれては周りに迷惑が掛かる。
「…………覚えとけよ」
鍵を回し、ドアレバーを下げて扉を開く。
通路の明かりに照らされた謙太は、龍之介の顔を見てホッと表情をゆるめた。
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