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訪ねて来た理由は分かったが、大事な話し合いを早く切り上げてきた理由は分からないままだ。
「寧花さんと陽色は」
「実家」
「置いてきたのか」
「離婚するって決まったから」
「…………そっか」
龍之介があれだけ復縁するようにと言ったにも関わらず離婚となった。あちらの家族の意向もある。こればかりは謙太の一存で決まるものではない。
「今回の件で寧花がすごく参ってて、今までの生活には戻りたくないって。だから離婚届も書いて判押してきた。役所に提出すんのは、もう一回ちゃんとしたとこを通してDNA鑑定して正式な結果が出てからになるけど」
「陽色の親権は」
「もちろん寧花に」
「そりゃそうか」
血の繋がりがない以上、謙太が親権を持つことはない。もし実の親子だったとしても、寧花と別れて独り身となった謙太が働きながら子育てすることは不可能。これまで育児に関わった実績もない。
「で、もし実の父親が認知しなかった場合はオレがそのまま戸籍上の父親になる」
「なんで? あとあと面倒なことになるぞ」
「生まれる前から自分の子だと思ってきたんだ。そんな簡単に切り捨てられん」
「でも、」
「寧花が子連れ再婚したら陽色が虐待を受けるかもしれない。その時の逃げ場になるくらいは出来る」
血の繋がらない再婚相手の子どもが虐待を受けるケースは多い。もし陽色の実の父親以外と再婚した場合、そうなる可能性は無いとは言えない。
謙太は戸籍上の父親となることで繋がりを維持し、何かあったら陽色の助けとなる決意をしていた。
「離婚するんだったら、陽色のことはおまえが背負い込む必要ないのに」
龍之介がそう呟くと、謙太は笑った。
「子どもを育てる大変さと大切さを教えてくれたのはリュウだろ。今までそんなこと考えたこともなかったけど、オレに出来るのはこれくらいしかないから」
不思議なことに、今になって謙太は父親らしい顔を見せるようになっていた。
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