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第30話・謙太の選択 2
「事情はわかったよ。おまえが選んで決めたことだ。俺が口を挟むことじゃない」
「うん」
「それで? なんでそれが大事な話し合いを早く切り上げる理由になるわけ? じっくり考えればもっと良い選択があるかもしれないし、今後どうするか、幾ら話しても足りないくらいだろ?」
龍之介に対する報告ならメールや電話一本で済む。今日連絡がつかなかったとしても急ぐ話ではない。明日以降に回せば済む話だ。直接会って話す必要もない。
呆れ顔で問い質す龍之介に対し、謙太は至極真面目な顔で居住まいを正して向き直った。
「早く会いたかったから」
「…………は?」
「オレが、リュウに会いたかったんだ」
「どういう意味?」
意味がわからず、龍之介がまた尋ねた。
謙太は室内を見回した。
見える範囲には必要最低限のものしか置かれていない。雑貨どころか余分な家具すらない。キッチリした性格の龍之介らしいといえばそうだが、それにしても生活感が無さ過ぎる。
謙太のマンションも片付いている方だが、三人暮らしだから物が多く、どうしても雑多な感じになってしまう。
こんな無機質な空間で龍之介が一人で暮らしていたのだと、謙太はこの日初めて知った。
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