第31話・謙太の選択 3

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第31話・謙太の選択 3

 告白とも取れる謙太(けんた)の言葉を、龍之介(りゅうのすけ)は笑い飛ばした。 「妻子が居なくなって出来た穴を俺で埋めるつもりか? 随分と調子のいい話だな。俺はおまえにそこまでしてやる義理はない」  勘違いしているだけの友人を正しい道に戻すため、わざと突き放すように冷たく言い放つ。そんな龍之介に対し、謙太は食って掛かった。 「代わりなんかじゃない、オレは──!」 「()()()だよ。何も違わない。そんなの真っ平御免だ! ていうか、わざわざ夜中に訪ねてきて、言いたいのはソレだけか」 「リュウ」 「おまえんちと違ってこっちは分譲なんだぞ。夜中に騒ぎやがって、迷惑考えろ馬鹿。住みづらくなったらどうしてくれるんだよ」 「リュウ」 「あーあ、勘弁してくれよ。俺はようやく一人のきままな暮らしに戻れるってのに、まだおまえのお()りをしろってか? 冗談じゃない!」 「リュウ!」  いつになく饒舌な龍之介を謙太が止めた。 「泣いてる」  身体を起こし、ソファーの座面に手をついて、謙太が龍之介の頬を伝う涙を指先で拭った。  そうされるまで、龍之介は自分が涙を流していることに全く気付いていなかった。震える手で自分の目尻に触れ、信じられないといった様子で口を噤む。 「確かにオレは身勝手だよ。ひとりになりたくなくてリュウに甘えてるだけだ。……でも、リュウだって、ひとりは寂しいんじゃないか」 「…………そんなこと、は」 「本当に?」  真っ直ぐな瞳に捉えられ、龍之介は否定の言葉を飲み込んだ。
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