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謙太のマンションで過ごしたあの数日間が眩し過ぎて、自宅に帰ってから抜け殻のようになっていたのは事実。これが寂しいという気持ちなのだと、独りで生きる辛さなのだと思い知らされてしまった。
「オレには家族が必要だって言ってくれたのはリュウだろ?」
「その家族は俺のことじゃない」
茫然とした表情のまま首を横に振る龍之介に、謙太は困ったように笑った。
「世話を焼いてほしいわけじゃない。ただ毎日顔を合わせて一緒にメシ食ったり、おかえりとかただいまを言いたい。……リュウと、そうなりたいって思ったんだ」
そう言って、謙太は上着のポケットから何かを取り出した。適当に折り畳まれた市役所の封筒。それを広げ、中から書類を引っ張り出す。
「責任とか義務とかじゃなくて、家族になりたいって思えたのはリュウが初めてなんだ。ホントはもっと早く言おうと思ってたんだけど」
それは婚姻届だった。
数日前、この封筒を手にした謙太が何かを言おうとしていたことを思い出す。龍之介は封筒の中身が離婚届だと思い込んでいたし、結局その時は何も話せずに終わったけれど。
ぐしゃぐしゃの婚姻届を見てしばらく無言で固まった後、龍之介はプッと吹き出した。
「馬鹿だ馬鹿だとは思ってたけど、なんで婚姻届なんだよ!!」
しんみりした空気から一転、龍之介は腹を抱えて笑いだした。一世一代の決意を笑われ、謙太は気まずそうに床に座り直す。
「……家族になるなら届を出さないとだろ」
「まだ離婚も成立してない癖に! あー、マジで笑える。しかも同性婚なんて日本じゃまだ認められてねーんだよ!!」
「そ、そうだったのか……! なんかそういうのニュースで見た気がしたんだが」
「そりゃパートナーシップ制度! どっちにしろ普通の婚姻届で申請するもんじゃねーよ! ……あーアホらし。何も知らない癖によく書類なんか貰ってきたな」
うろ覚えの情報だけで行動に移そうとしたのは、やはり無知故の無謀さだろうか。
「……必死だったから」
恥ずかしそうに顔を真っ赤にして呟く謙太に、龍之介は笑うのをやめた。
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