第32話・龍之介の事情

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「この前、偶然小児科で会ったんだ。別れてから二年しか経ってないのに、もう違う男と結婚して子ども産んでた」  それが陽色(ひいろ)を病院に連れて行った時のことだと気付き、謙太は俯いた。  あの日、会社からの呼び出しを後回しにして自分で陽色を病院に連れていっていれば、龍之介は別れた彼女と遭遇することは無かった。辛い記憶を呼び起こしてしまったのは自分のせいだとようやく気付いた。 「俺が結婚に向いてないのはコレが理由。分かるだろ? 子どもが作れない役立たずだから捨てられたんだ」 「リュウ……」 「おまえに呼ばれた時、ホントにムカついたんだ。恵まれた環境にいる癖に家族を大事にしてなかったから。俺がどんなに望んでも持てないものを持ってる癖に」  必要以上に罵ったのは全て八つ当たりだった。龍之介の欲しいものを持っていながら、それを全く顧みない謙太に怒りを覚えた。  ──自分なら絶対に家族を優先するのに。  それが当たり前の幸せではないと知っているからこそ龍之介は憤った。
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